酔っ払い会社員の財布からクレジットを盗んでいた

被告人は30代まで実家に住み、建築現場などで働いていたが、ヒザを痛めて仕事を辞め、2年前に実家を出てからは路上やネットカフェで生活してきた。その間、この方法で月に10万円以上稼いでいたという。

その知恵とガッツをまっとうなことに使えば、この人は犯罪などしなくてもやっていけるのではないか。頭を下げて実家に戻り、住民票と健康保険証を確保してコンビニでバイトするのはどうだろう。万引きや詐欺にめっぽう強い店員になれるはずだ。

では、なぜ捕まったのか。

知恵を働かせたといっても、たったひとりで行う犯罪。同じ手口の詐欺が続いたことで、前歴が多数ある被告人は当局にマークされていた。検察官ははっきり言わなかったが、監視カメラに犯行時の様子が映っていたのだろう。逮捕時は指名手配中だったという。

逮捕されたのは、深夜のJR山手線で警察官が被告人を発見し、駅で他人のバッグを物色しているところを見つかったからだ。電車内や駅の構内で財布を盗み、その足でコンビニに行ってクレジットカードで入場券を買うのが被告人の常套手段だったのである。検察官が、犯行のひとつを次のように説明した。

「午後9時半ごろ、JR田町駅から乗車したAさんが、飲酒と仕事の疲れから座席で寝てしまい、渋谷駅で改札を出ようとして、背広の内ポケットに入れていた財布がなくなっていることに気がついた。後日、カード会社から不審な引き落としがあったと連絡を受けたため、誰かがAさんになりすましてカードを使用したことがわかった」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

財布やカードを紛失しても届け出ない人が多いワケ

Aさんは、自分はおそらく財布を落としたのだろうと思い込み、夜でもあることからカード会社に連絡するのをためらった。そのスキに入場券を買われてしまったのだが、Aさんの気持ちはなんとなくわかる。

午後9時半の山手線なら、それなりに乗客は乗っているはずだ。居眠りしたといっても、田町から渋谷までの乗車時間は15分程度。そんな短時間のうちに、内ポケットの財布を盗まれてしまうなんて、想像できない人が多いのではないか。

過去に経験がなければ、身に着けているものを奪われたと考えるより、どこかに忘れたか落としたに違いないと考えるのが自然だ。その場合、親切な人が拾って駅に届け、連絡が来る可能性もある。そう考えている間にカードは悪用されてしまうのだ。

被害に遭ったと思っていないので警察にも届け出ない。まさに犯罪者の思うツボで、置き引き犯が捕まりにくい理由にもなっている。