第4次産業革命の成果はすでに出始めている

このところ、上場したロボット企業の株価が軒並み低迷している本当の理由も、自分で2社ほどロボット企業を経営したからこそ、より深く理解できることがある。

加藤崇『クレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む』(日経BP社)

ロボットで何かの作業をやるならば、まだ安い人件費で人間がやるということ、もしくはもっともっと簡単な機構でできた小型装置(ワイヤーとセンサー1個など)を使用することに(経済的な)軍配が上がってしまうという状況が、最悪もう10年、20年と続いてしまうかもしれない。残念ではあるが、それが現実なのだ。

ところが、ちょっと聞いただけでは、ロボットよりも時間がかかりそうだと思っていた人工知能分野が社会的に果たす役割については、既に社会実装において、経済的に合理的な成果が出始めているというのが僕の観察だ。

この破壊的な技術革新は、第4次産業革命と呼ばれるにふさわしい。僕がこの本の中で、興奮しながら自分が見つけたこの事業機会について語っている箇所を読み返すとき、あの時の感動がよみがえり、今でも胸がいっぱいになる。

スタートアップの経営は「徒弟制度」に似ている

アメリカの起業教育、ベンチャー論の大家(元Babson College教授)に、今は亡きジェフリー・ティモンズという人がいる。かつて彼が自らの著書で語ったことが、今でも忘れられない。スタートアップでの経営に触れる最高の機会は、ある種の徒弟制度にあるというのだ。

スタートアップで起こること、実際の意思決定を、教科書的に学ぶことはできない。だからこそ、自分のロールモデルになる人を見つけ、その人の経験を間近で聞くことによって、スタートアップとは何であるのか? 何が成功の法則であるのかということを、肌で覚えるしかないという話だったと記憶している。

ところが、日本に住むほとんどの人たちに、シリコンバレーの起業家たちの生活を間近に見る機会はなかなか無い。その意味で、本書に書かれた僕の3年間の冒険の軌跡は、日本人がフルスケールの「アメリカ的」イノベーションとは何であるのかを知り、それを身近に感じるきっかけになるのではないかと思う。

日記スタイルで書かれているので、全文目を通しても、3~4時間で読めてしまうだろう。通学、通勤の途中で、また週末にコーヒーを飲みながら手にとってもらえたらうれしい。


加藤 崇(かとう・たかし)
フラクタ(Fracta, Inc.)CEO
早稲田大学理工学部(応用物理学科)卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東京三菱銀行等を経て、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者(兼取締役CFO)。2013年11月、同社を米Google本社に売却。2015年6月、人工知能により水道配管の更新投資を最適化するソフトウェア開発会社(現在のFracta, Inc.)を米国シリコンバレーで創業し、CEOに就任。2018年5月に株式の過半を栗田工業株式会社に売却し、現在も同社CEO。2019年1月に新刊『クレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む』(日経BP社)を上梓。現在、米国カリフォルニア州メンローパーク在住。
(写真=日経BP社提供)
【関連記事】
日米歯科技術は"メジャーと高校野球"の差
なぜアマゾン倉庫内の写真は出回らないか
日本がファーウェイを締め出す本当の理由
"人手不足とAI失業"どちらが本当か?
"ロジカル思考バカ"がまるで使えない理由