これから労働市場はどう変わっていくのか。三菱総合研究所の武田洋子氏は「本質的な問題は、求められる能力と労働者が持つ能力のミスマッチだ。それを放置していれば、日本企業の生産性はじわじわと低下していく」と指摘する――。

人手不足は中長期的には解消に向かう可能性

近年、労働市場を取り巻く環境として、相反する2つのことが同時に語られている。

ひとつは、わが国には深刻な労働力不足時代が到来しつつあるという認識。もうひとつは、AIやロボティックスの社会への普及により、人の雇用が奪われるという懸念である。

果たしてどちらが正しいのであろうか。われわれの分析によれば、どちらの主張も半分は核心を外している。問題の本質は労働者の持つスキルと求められるスキルのミスマッチが広がることにある。本稿ではそのことを証明し、対応策を提示する。

これまでの日本の労働市場をみると、経済や産業構造の変化に対して柔軟性が低かったと言わざるを得ない。しかし、好むと好まざるとにかかわらず、日本の労働市場を取り巻く環境は着実に変化し始めており、労働需給の構造も大きく変わっていく。

まず、人口の減少や国民の健康寿命の長期化から、労働供給の構造が変化する。労働に対する需要面では、AIやロボティックスなどの新技術が人間のタスクを代替していく動きが広がる一方で、新技術を用いて新たなビジネスを生み出す人材や、AIなどには代替されない創造的なタスクを担う人材の需要も高まるであろう。

三菱総合研究所(「内外経済の中長期展望」2018年7月9日公表)では、新技術の進展が労働市場に与える影響を考慮しつつ、労働需給ギャップを時系列で試算している。具体的には、「第四次産業革命が実現した場合に必要となる就業者数」を人材需要、「公的人口推計と過去15年の産業・職業・性別・年齢別就業トレンドに基づく就労者数」を人材供給と位置づけ、両者の差分を需給バランスとして、2030年までの人材需給を推計している。

つまり、成り行きの人材供給に対して、技術革新が着実に実現したときの人材需要がどの程度乖離するかを試算したものである。結果は一定の幅をもってみる必要はあるが、本試算によれば、2020年代半ばまでは極めてタイトな労働需給が続くが、2020年代後半以降は急速に需給が緩和され、2030年には解消に向かう(図表1)。