実際の薬価算定は役人が行うが……

私は以前、薬の承認審査を行う厚生労働省の関連機関で働いたことがあります。個人的経験からは、この回答は納得できるとも考えています。厚生労働省の審議会の委員というと、一般人から見ると権威がありそうな漢字が並べられた肩書きがつきます。

しかし、実際は役人の筋書き通り動く大学教授などが選ばれるケースがほとんどです。そのため、「御用学者」と揶揄されることもあります。逆に、そうでないと行政の業務が滞ってしまう事情も実はあります。その結果、審議会などで場の空気が読めず、規定路線から外れた意見を言う委員は排除される傾向になるのです。

したがって、「官尊民卑」という言葉がいまなお通用するような、役所のお手盛りなのが実態です。薬価算定組織の委員長が製薬会社から1000万円以上の副収入をもらっていたとしても、役人が薬価算定をきちんとしていれば問題にならないという理屈なのかもしれません。

実際、同様のことは他にも前例があり、製薬会社の社外取締役を務める人物が、新薬が日本で使えるか否かなどを審議する部会の長を長く務めていたことが知られています。公的組織の長が一製薬会社の社外取締役でも、実際は役人が勝手にやるのでとくに公平性に支障はない、と厚生労働省内では理解されていたのでしょう。

その気になればいつでも立件できる

しかし、これら政府関連の委員ということは、非常勤の国家公務員という立場になります。長年の間、薬に関連する政府の委員が製薬マネーを受け取ることは常識となっていました。前述のように、厚生労働省も独自の省内ルール(1社から年間500万円以上受け取ると審議に参加できない、など)を設け、会議の運営上も問題とされていませんでした。ところが、よくよく突き詰めると「刑法上はクロ」で、ロハス・メディカル編集発行人の川口恭氏によると、「その気になれば、いつでも立件できる」とする捜査関係者もいるそうです。

厚生労働省内部のルールではよくても、刑法はその上位にくる決め事です。刑法では、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する(第197条1項)」とされています。

すなわち、職務上の権限がある公務員が、お金をもらう、要求する、約束するのいずれかをすれば、収賄が成立することが条文で明確に述べられているわけです。必ずしも便宜を図っていなくても、罪になってしまいます。