南北統一で北朝鮮の人々は金王朝の「嘘」に気づく

冒頭で述べた米朝の交渉も朝鮮半島情勢の「次」や「次の次」の絵を描くと行方が見えてくる。「次」は朝鮮戦争の終結であり、平和条約の締結。「次の次」は南北統一ということになってくるだろう。

そこで統一コリアの統治機構はどうなるか。USA方式、UK方式、UAE方式などモデルはいろいろあるが、シンプルに北と南の代表から統一大統領を選ぶ形になるとしよう。南は選挙で文在寅のような代表が選ばれる。北は金王朝だから代表は金正恩しかいない。候補になりうる人材はすでに殺されるか粛清されるかしているからだ。

さらに民主的な選挙で1人の大統領を選挙で選ぶとなれば、人口比で優位な南から選ばれるに決まっている。しかし、たとえば文在寅が統一大統領で金正恩が副大統領という統治体制がありうるだろうか。独裁専横で国民を殺しまくり、自分の親族、兄さえ殺した金正恩と統一大統領が、仲良く机を並べて仕事ができるとは思えない。それに南北の行き来が自由になって韓国の繁栄を目にすれば、北朝鮮の人々は金王朝の嘘に気づく。恨み骨髄で「生かしておけない」ということになれば、ルーマニアのチャウシェスク元大統領と同じ運命をたどることになる。

意味不明のフレーズ「体制保障」の意味

米朝協議の当事者はこうした「次の次」を誰も考えていない。ただ1人、金委員長だけが自らの末路を正しく見通していた。だからシンガポール会談の事前協議でも、金王朝の体制保証を必死に求めたのだ。

韓国の文在寅大統領は朝鮮戦争を終結させ、平和条約まで持っていきたいという。そこまでは考えやすい。平和条約が結ばれて米軍が韓国に駐留する理由がなくなれば、北朝鮮も武装解除しやすくなる。最高権力者である金委員長のグリップも利く。ところが平和条約の先、つまり「次の次」には金委員長の居場所はなくなる。文在寅大統領がそこまで考えて南北統一に執着しているならたいした策士だ。しかし、彼は次のフェーズのことしか念頭にないのだろう。

近い将来、当事者能力を失うことが明らかなリーダーと重要な交渉をまともにやる意味はない。交渉を急がなくても金王朝はどのみち自滅するし、トランプ政権の行く末も微妙。ポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官からすれば、大統領がいつものスタンドプレーで適当な妥協をするほうが困るわけで、会談決裂は「大歓迎」なのだ。

米朝会議決裂後、北朝鮮が核実験やミサイル実験を再開するという見方も出たが、それはないと思う。「俺のおかげで核やミサイルの脅威はやんだ」というトランプ大統領の思い込みが、米朝会談の最大の拠り所であり、トランプ再選のブースターだ。核実験やミサイル発射実験を再開すれば、アメリカが金委員長を標的に攻撃する「鼻血作戦」を実行に移す公算は大きい。当人がそれを一番わかっている。「体制保証」という意味不明のフレーズも、こう考えるとかなり明確に見えてくるのではないだろうか。

(構成=小川 剛 写真=時事通信フォト)
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