怖い、もうヤダ……早くおウチに帰りたい
いくつになっても歯医者に行くのは気が重い。世間にはそういった人が少なからずいると思う。かく言う私もそのひとりだ。
不気味なドリル音。それによってもたらされる、神経にさわるような痛み。脳を揺さぶるような震動。そんな幼少期に受けた虫歯治療の苦痛がトラウマとなり、43歳になった今でも歯医者にビビりまくっている。お恥ずかしい話だが、歯石のクリーニングさえ二の足を踏んでいる。
しかしこれ、単におじさんの情けない話というだけでは済まされない。歯医者に行く足が遠のくということは、歯周病予防の観点からも非常に不都合である。
一部の歯医者では患者の恐怖心を軽減させるため“笑気ガス”という特殊なガスを用いている、と聞いたときは光明を見た気がした。
笑気ガス。いつぞやアメリカの古いコメディ映画で、そのガスを吸った人間がケタケタと笑っているシーンを見た記憶があるが、本来は医療の世界で広く使われているクラシカルな麻酔だという。
ちなみに笑気ガスには、一種の危険ドラッグとして世界中の若者が乱用してきた一面もあり、日本では2016年に指定薬物の仲間入りを果たしている。換言すれば、それほど効果は高いと思えるが、実際のところはどうなのか。
いざ体験すべく、治療時に笑気ガスを併用しているクリニックをネットで探し、歯石のクリーニングを予約。「歯医者が怖いので、施術の際に笑気ガスを使ってほしい」と伝えたところ、リクエストは快諾された。
予約当日、やや緊張気味にクリニックへ。診察室に通され、施術台に座ると、先生がガスマスクのような吸引具を私の鼻に取り付け始めた。どうやらここから笑気ガスが放出されるらしい。それにしてもこの物々しさ。緊張がさらに高まっていく。
「では笑気ガスを流しますね。鼻から深く吸い込んで、深呼吸の要領で何度も繰り返してください」