相続で揉めるのは「遺産5000万円以下」が多い

老親の死を待ちながら、ベットの横で現代の相続特集を貪り読む息子や娘たち。彼らの妻や亭主たちも一緒になり、「親父の貸金庫の暗証番号を聞いておかなくては」「生命保険には入っていたかな。あれは時効が3年だそうだから、探さなくては」などと、死後のカネを漏らさず手に入れる算段をしているのである。

私事で恐縮だが、私の両親はすでに亡くなっている。母親が先に逝ったため、相続手続きは親父が亡くなった時だけだった。

私は2人兄弟である。親父が亡くなる半年ぐらい前に公証人の面前で「家は長男に譲る」と言ってもらって、遺言書を作成した。家は私が譲り受け、現金は弟に渡すということで落着した。

煩雑な手続きは、私の友人の司法書士に依頼した。したがって、現代が特集しているようなことはやらなかったが、銀行預金や生命保険がどうなっていたかについては、記憶が定かではない。もしかすると見落としていたかもしれないと思わないでもないが、今更悔やんでも仕方ないと思っている。

相続で揉めるのは、遺産が1000万円から5000万円程度のケースが多いといわれる。

同じ敷地内に別々に家を新築し、まったく話をしない姉弟

私の知人でも、こういうケースがあった。都内に母屋と離れのような形で、母屋に母親と長女夫婦、その子供たちが住み、離れには長男夫婦。連れ合いを早く亡くした母親は元気な人だったが、90歳を過ぎるころから認知症が始まったようだ。

たしか93歳ぐらいで亡くなったと思うが、死後、姉から、母親の遺言で、この家は私がもらうから、あなたたちはここから出ていってほしいと通告された。弟がいるが、彼は遺産を放棄することを承諾していた。ただ、長男は「そうですか」と出ていけるわけはない。

それに、亡くなる間際に書かせたという公正証書遺言はあったが、認知症が進んでいたため、そうした判断はできないはずだと主張し、ついには法廷闘争になった。

結局、長男の申し立てが一部認められ、遺留分以外に、今住んでいる土地の相続権を勝ち取ったのである。

同じ敷地内に別々に家を新築したが、一切行き来もしなければ話もしない。姉弟は他人の始まりである。仲の良かった兄弟姉妹が、相続をめぐり仲たがいしてしまうというのは、決してまれな話ではない。