資金調達急増でも素直に喜べない理由

政府活動報告によると、財政・金融面では、①2019年の財政赤字は2兆7600億元(約46.0兆円)、GDP比は2.8%とし、2018年より0.2%ポイント引き上げる、②地方政府特別債券のネットの発行額は、8000億元(約13.3兆円)増の2兆1500億元(約35.9兆円)として、重点インフラ投資の建設を資金面でサポートする、③社会資金調達金額残高の伸び率やM2増加率は、名目GDP成長率と見合いとする、などとされた。

上記②の地方政府特別債券の発行が制度化されたのは2015年であり、同債券はインフラ投資など収益性のある地方プロジェクトに用いられる。2019年の地方政府特別債券のネットの発行額(発行額-償還額)とその純増額は大きく増えており、景気下振れリスクが高まる中、インフラ投資を下支え役に、景気の大幅減速を回避しようとの中国政府の意図が読み取れる。

この動きはすでに始まっている。2018年にインフラ投資が腰折れとなったのは、2017年後半以降、地方政府債務の急増を招きかねない、地方政府によるプロジェクトの資金調達の肩代わりや投資資金・利益の保証を中央政府が禁止したためであった。デレバレッジの成果としてインフラ投資が急減速したのである。しかし、デレバレッジを堅持することはできずに、昨年夏場以降、景気急減速回避を目的にテコ入れが始まり、既述した通り、2019年はインフラ投資のための地方政府特別債券の発行額が大幅に増額されている。

さらに、昨年夏場以降の金融緩和により、行きすぎたデレバレッジは修正されただけではなく、2019年1月の社会資金調達金額の増減額は、実に50.5%増の4.64兆元と急増した(ただし、2月は減少)。企業の資金調達難は景気減速要因の一つであり、その緩和は本来喜ぶべきことである。しかし、その急増は少なくとも二つの大きな問題や懸念を抱えている。

一つは資金調達金額急増の恩恵が国有企業を中心とする大型企業に集中し、中小・零細企業は蚊帳の外に置かれている可能性が高いことである。2月の国家統計局の製造業PMIは49.2と、3カ月連続で拡大と縮小の分岐点である50を下回った。企業規模別には、大型企業は51.5、中型企業は46.9、小型企業は45.3となり、大型企業は50を上回り、かつ上昇した一方で、中型企業と小型企業は一段と低下した。中国政府は昨年夏場以降、中小・零細企業向けのサポート強化策を相次いで発表したが、その効果は発現していないどころか、状況はむしろ悪化している。

中小・零細企業の資金調達難、調達コスト高の改善は積年の課題であり、今回の政府活動報告でも、①中小銀行を対象とした預金準備率の引き下げを行い、貸出可能となった資金の全てを民間企業や中小・零細企業への貸出に充当する、②国有大型商業銀行の中小・零細企業向け貸出を30%以上増加させる、といった政策が打ち出されてはいる。ただし、この実効性をどのように担保するのか、道筋は示されていない。