「個」の価値が圧倒的に高まっている

現代は、「ONEが暴れ始めた時代」といっても過言ではない。インターネットは、情報収集においても情報発信においても、ONEにとって大きな武器となっている。他社情報を収集できることで転職がしやすくなり、自社の悪い情報を口コミサイトで発信することもできる。会社を辞めようと思ったら、ひと昔前と違ってすぐに辞められるし、転職もたやすい。

ひと昔前までは、日本企業のほとんどが終身雇用、年功序列であったため、転職のハードルは非常に高かった。だからONEは、暴れることなく社内でまじめに忠誠心をもって働くことを選択した。

これに対してALLである企業も、簡単に従業員を解雇することなく、雇用の安定と右肩上がりの給料を保証した。お互いにとってウィン・ウィンの関係であり、「ONE for ALL, ALL for ONE」のバランスもとれていたのだ。

しかし、終身雇用、年功序列は崩れ、日本の労働市場では人材の流動化が進み、明らかにステージが変わった。しかも、経済のソフト化やサービス化が進んでいるため、よりONEの価値が高まっている。だから、ONEが暴れ始めたのだ。

ALLとしては、こうした強いONEから選ばれるために、ONEと向き合って、人材流動化が進む労働市場に適応していく必要がある。

組織の力を分散させない施策も重要

ただ、ONEから選ばれる企業になるために、あまりにONEに媚びて「ALL for ONE」に傾きすぎた働き方改革の施策を行うと、ALLとしての成果が大幅に減じてしまうのは、フリーアドレスの事例で見た通りだ。

多くの日本企業で今静かに進行しているのは、こうした「for ONE」の施策を多々行うことで「for ALL」の力が弱まり、組織文化が薄まったり、一体感が消えてしまったりといった、組織がバラバラになる現象だ。一度変化に適応したONEに「再び元の働き方へ戻せ」というのは、想像以上に難しい注文なのである。

「for ONE」のための施策は、組織の力を分散する。だから、返す刀で組織の力を統合する施策も同時に行わなければならないのだが、こちらは忘れられている。だから、「for ALL」の力が弱まってしまうのだ。

ONEが強い時代に合わせ、「ONE for ALL, ALL for ONE」を高い次元で実現できる企業は、おそらくどのような業界においても勝ち続けていくことができるだろう。

小笹芳央(おざさ・よしひさ)
株式会社リンクアンドモチベーション会長
1961年、大阪府出身。1986年、早稲田大学政治経済学部卒業、株式会社リクルート入社。2000年、株式会社リンクアンドモチベーションを設立し、同社代表取締役社長に就任。2013年、同社代表取締役会長に就任し、グループ14社を牽引する。『会社の品格』(幻冬舎新書)、『モチベーション・マネジメント』(PHP文庫)など著書多数。
(写真=iStock.com)
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