フリーアドレスは組織図を壊す

なぜ、完全フリーアドレスがうまくいかないのか。その答えは組織図にある。

企業にはほぼ必ず組織図がある。なぜ組織図があるのかといえば、それが権限の配分図であり、コミュニケーションチャネル図だからだ。組織図があるから、何をどこの誰に相談すればいいのかがわかる。

ところが、社内を完全フリーアドレスにすると、この組織図がない状態になる。100人の組織なら、社内を見渡しても100人の個人がいることしかわからない。まさに要素還元的な組織であり、関係性やコミュニケーションはむしろ大きく阻害される。組織が個人の集合体でしかないため、組織力はまったく発揮されない。

つまり、社内を完全にフリーアドレスにすると、組織図がなくなり、組織が組織としての体をなさなくなる。だから、完全フリーアドレスはほぼ間違いなく失敗するのだ。

もしフリーアドレスを実施するなら、部門ごとにエリアを決め、そのエリア内をフリーアドレスにする。総務部エリア、人事部エリアをつくって、そのエリア内をフリーアドレスにすれば、組織図=コミュニケーションチャネル図がある状態を維持できるので、相談などのコミュニケーションも簡単にとれる。

こうした部門ごとにエリアを決めたフリーアドレスを当社では「デザインアドレス」と呼んでいる(一般的にはグループアドレスと呼ばれている)。

新人や若手を育てるのにも不向き

またフリーアドレスは、期待に反して組織やチームのコミュニケーションがとりにくいため、「人が育たない」ことも大きな問題だ。特に新人や若手は、まだ右も左もわからない状態なのだから、いつでも質問したり、相談したりできる先輩の存在が欠かせない。

組織やチームを家族にたとえると、ちょっと目を離したら何をしでかすかわからない小さい子供がいるときに、フリーアドレスをやりますか、ということだ。小さい子供を自由に遊ばせるのは、子供部屋の中だけか、親がいる部屋の中だけであろう。

私が組織変革に際し、常に念頭に置くべきコンセプトとして挙げている「ONE for ALL, ALL for ONE(個人は組織のために、組織は個人のために、と意訳して考えてほしい)」の観点からいえば、完全フリーアドレスはONEに傾きすぎている。

だから、部門ごとにエリアを決めることでALLにも配慮し、「ONE for ALL, ALL for ONE」のバランスをとることが大切になるのだ。この「ONE for ALL, ALL for ONE」の視点は、働き方改革の数々の施策を自社に落とし込む際に、絶対に欠かせない視点である。