日産やルノーの取締役会に出席すれば影響大

独断専行型の人物から再び多くの人の意見を聞き、具体的な解決策を探ろうとする人物に再びゴーン氏が戻ったとしたら、今後の裁判の行方も日産やルノーの経営陣との折衝は予期せぬ展開が待っている。

ゴーン氏の記者会見は11日以降に開かれる見通しだ。ゴーン氏や弁護団は1週間程度、会見での発言内容を吟味する構えだ。取締役として残っている日産やルノー、三菱自動車の取締役会への出席も裁判所が許可すれば可能である。

日産役員は「経営者として信頼をなくしている。出席したとしてもゴーン氏の発言を誰も聞かないだろう」と話すが、現実にゴーン氏が出席すればその影響は小さくはない。会社側の調査で不正が発覚しても、本人の弁明なしに処分されることは一般の社員でもあまり例のないことである。今回のゴーン氏の会長職などの解任は本人の弁明なしに行われたもので、ゴーン氏側の反論の余地はある。

19年前の「日本で過ごした誕生日」にゴーン氏が語ったこと

3月9日はゴーン氏が久々に日本で過ごす誕生日である。この20年間で、日本で過ごした誕生日は少なくとも一度ある。

2000年3月6日。日産の取引金融機関だった日本興業銀行(現みずほ銀行)の西村正雄頭取らと東京・丸の内の東京會舘でフランス料理とワインを楽しんだ。日産とルノーの提携から1年たち、コストカッターと言われた剛腕で日産を切り刻むのではないかと心配していた西村氏がゴーン氏の誕生日を祝う形で、ゴーン氏の真意を探ったのだ。

「やみくもにコスト削減はしない。日産の生産システムはルノーよりもすばらしい。守っていく」。ゴーン氏の答えに西村氏はほっと安心した。それが19年前の誕生日だった。

2005年以降はルノーのCEOを兼任したので日本滞在時間は減った。日本で誕生日を過ごすことも少なくなったはずだ。保釈中のゴーン氏にとって、今年にとどまらず、来年も日本で誕生日を過ごすことになる可能性が高い。

異国で妻と娘と誕生日を過ごし、来週からの闘いに向けてゴーン氏は策を練っているに違いない。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
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