人生最大の買い物で重視すべき「性能」

建物の断熱・気密性能を十分に向上させると、ごくわずかな熱で室内全体を穏やかに暖かく保つことが可能となる。快適性と省エネ性を高い次元で確保するには、まず建物そのものの性能アップを避けて通ることはできないのだ。

不幸なことに日本においては、「建物そのものの性能」という考え方が普及していない。住宅の価値を決めているものは、デザインや使っている素材、プランニングや立地の利便性など。車や電化製品については、パワーの大きさや燃費といった性能が数値化されて明示化され、選択の際に大いに参考にされている。人生最大の買い物である住宅においても、今後は性能が重視されるようになるのは当然といえよう。

断熱・気密の性能が確保された住宅の室内。温度ムラがほとんどない快適な環境が形成されている。(撮影=前真之)

住宅の性能を向上させれば、快適な温熱環境が少ないエネルギー消費で実現できることは、数多くの実証で裏付けられている。地球環境問題が深刻化し、温暖化ガス抑制を目指して2015年にはパリ協定が採択された。これを受けて国土交通省は住宅において2030年までにCO2排出量を39%減、エネルギー消費を27%削減する計画を立てている。

この省エネ・省CO2目標達成の目玉として挙げられていたのが、「2020年省エネ基準適合義務化」であった。建物そのもの及び設備に一定以上の性能を求めるものであったが、1月18日の社会資本整備審議会第18回建築環境部会で、住宅において義務化は行わないという結論が出されてしまった。

住宅の省エネはペイしないのか

義務化を行わない理由として国交省が挙げていたのが、「住宅の省エネはコストパフォーマンスが悪く、施主に強制はできない」というもの。国交省の資料(建築環境部会「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」(第二次報告案)参考資料)では、建物性能向上にかかるコストが、暖房費削減により何年で元がとれるかを示す試算がされているが、戸建住宅ではペイバックタイムが22年~44年と非常に長くなってしまっている。

たしかに、現状では冬の暖房にかかる燃料代はそれほど多いとは言えない。総務省統計局の「家計調査報告」によれば、2018年における二人以上の世帯における消費支出の全国平均は32.9万円であり、そのうち光熱・水道は2.2万程度。さらに資源エネルギー庁の「エネルギー白書2018」によると、住宅全体のエネルギーに占める暖房の割合は4分の1程度だ。北海道や東北などの寒冷な地域ではともかくとして、全国平均では暖房の燃料費はさして大きな支出といえないのが現状である。

(画像=「エネルギー白書2018」より)