暑さ寒さは建物の性能で克服できる
2020年の住宅における省エネ基準の適合義務化が流されたことは、住宅に関わる人々にさまざまな反響をもたらしている。筆者個人としては義務化がなされないことは甚だ残念であるが、一方でわれわれは個人の思想や選択が尊重される、自由主義社会に暮らしていることも理解している。
公共の福利に反しない限り各々の自由は最大限尊重される以上、本来は国の規制は最小限であることが望ましい。そうなると国の施策に過剰に期待するよりも、みんなが主体的に質の高い生活を追求することこそが最も重要ではないだろうか。国民一人ひとりの意識的な行動と選択こそが、社会を望ましい方向に変えていくのである。
これから家を建てる人には何よりまず、「寒さや暑さは建物の性能で克服できる」という確たる事実を知って、質の高い快適で健康な住環境をどんどん追求してほしい。問題の先送りにつながりかねない我慢は禁物である。
そして建物性能確保の技術自体はすでに確立しているのだから、高性能な家をちゃんと建ててくれる、勉強熱心で真摯な設計者・施工者を探していただきたい。筆者は各地でそうした素晴らしい住宅の造り手をたくさん知っている。きっと、あなたの住んでいる地域にも見つかるはずだ。
住宅は「住む人の生活」のためにある
誰にどんな家を建ててもらうのか。そのチョイスがあなたや家族の生活に大きな影響をもたらすのは当然である。そして優れた性能の家は、次の世代に引き継げる資産となる。質の高い家造りが広がることは、個人の人生だけでなく、地域や日本にも好循環をもたらすのである。
日本において、住宅は建てる側・産業側の立場から論じられることが多い。しかし、住宅の本来果たすべき役割は、日本の津々浦々で人々が幸せに暮らす器の役割を果たすことであるはず。住む人の生活の質を高めることができる質の高い器を、すべての人が手に入れることができる日が、一日も早く来ることを期待したい。
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授
1975年生まれ。2003年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員として建築研究所に勤務。2004年4月より独立行政法人建築研究所研究員、同年10月より東京大学大学院東京電力寄付講座客員助教授。2008年4月より現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学、研究テーマは住宅のエネルギー消費全般。著書に『エコハウスのウソ』(日経BP社)。