武田薬品の大型買収は別世界の話
一方、他の日本の製薬会社経営陣は、武田の当該買収案件を、外国人経営者が別世界で行ったことの如く振る舞っており、再編に対する危機感や興味は驚くほど薄い。実際、日本の製薬会社の経営陣は、合従連衡の必要性がないことを投資家に説くのに忙しい。
2014年9月に開催された日本製薬工業協会のセイサクセミナーで、当時の同会長は再編の必要性について問われ、「外から言うものではない」、つまり投資家などのステークホルダーの意見を聞く意思はないと応じた。中外に続く外資傘下型の提携が無いことも驚きであり(唯一外資大手と資本関係にあったJCRファーマは英GSKとの関係を解消)、資本を持たれることへの経営陣の強い抵抗感を示している。
2008年の協和発酵工業とキリンファーマ合併以降、日本の製薬業界で意義深い合従連衡は起こっていない。主な理由は5つに整理できる。
(1)コストシナジーを実現する人員削減が難しいこと。早期退職に対する経営陣の忌避感が強く、人員整理策として非コア事業子会社への出向が頻繁に用いられているため、非コア資産の整理も進まない。MRの減少もゆっくりとしている。
(2)合併で創薬の生産性が上昇するとは考えにくいこと。合併で直ちにパイプラインが創出できれば誰も苦労しないが、コスト効率化や重複の排除といった長期的な効果は認識されていない。
(3)2008年までの合併会社が文化的に苦労していること。いまだに単一の株式として取引される2社のような振る舞いをしている会社もあるように見える。
(4)薬価改定はあるものの、基本的には保護されており即座に収益性が低下するわけではないこと。日本の上場製薬会社で破綻を経験したり、会計年度を通じて赤字になったりした企業は存在せず、その点では異様な産業といえる。出口戦略の先例がないことも戦略的選択肢の検討を遠ざけているのだろう。
(5)再編で社長の椅子の数が減ること。
日本の製薬会社の経営陣は、自らの地位を守るために、失敗を避け、平穏無事に務めを果たすことに汲々としているように見えると言っては、言い過ぎだろうか。