核戦力は韓国も手にすることのできない「宝剣」です。北朝鮮は貧弱な経済でありながらも、毎年国内総生産(GDP)の約3割を軍事費に当てています。しかし、いくら軍備を増強しても、豊かな経済力に支えられる韓国軍には勝てません。北朝鮮は核保有によってのみ、韓国を越えることができるのです。

核保有は軍事的な優位性を確保するばかりではなく、外交的・政治的優位性を確保することにもつながります。そのため、北朝鮮は絶対に核を放棄しません。国連安全保障理事会の専門家パネルの報告書によると、1回目の米朝首脳会談の後も、北朝鮮は北西部の寧辺(ニョンビョン)の核施設を稼働させており、そのことを示す排水が衛星等で確認されています。また、南部の平山(ピョンサン)のウラン鉱山では採掘が行われています。つまり、北朝鮮は核開発を依然、続けているのです。

「カネより大事なもの」をトランプは理解できるか

「北朝鮮は経済成長や支援と引き替えに、核を手放すのではないか」という観測も一部にありますが、実際にはそれはあり得ないことです。北朝鮮の現体制は核開発とともに築き上げられ、核戦力の保有ということを政権運営の中軸に据えています。そんな北朝鮮にとって、核放棄は自らの存在否定に等しいものです。

トランプ大統領が「北朝鮮は核放棄と引き替えに経済的に躍進するだろう」ということを繰り返し述べ、彼らが核放棄に向かうと信じている節があるのが、とても気にかかります。「カネ勘定こそ正義」と心から信じている彼は、カネよりも大事なものがある相手を見誤っているのかもしれません。

トランプ大統領は国内政治で多くの難題を抱え、苦境に立たされています。昨年11月の中間選挙では民主党が下院で過半数を占め、ロシア疑惑などでトランプ政権を追い詰めようと狙っています。2020年の大統領選挙での再選への展望も、描けない状態に陥っています。そんな中、2回目の米朝首脳会談の舞台を政治的に利用し、外交の「華々しい成果」をアピールしようとしているという見方も少なからずあります。

「北朝鮮が核を絶対に放棄しないという前提に立つならば、首脳会談を行うこと自体が無意味だ」とする指摘は、1回目の米朝首脳会談の時からありました。残念ながら、こうした批判が次第に説得力を増してきている状況です。