軽減税率より給付付き税額控除の導入を
ただし、政府が低所得者対策として行っている軽減税率は見直しが必要だ。軽減税率は、高級品であろうが廉価品であろうが、一律で減税されるため、高級品の購入割合が高い高所得層が一番の恩恵を受ける。したがって、低所得者層の税負担が相対的に大きくなるという消費税固有の逆進性を是正する効果は乏しい。また、軽減税率の対象品目については、どうしても政治家などの恣意性が入ってしまう。
今後税率を一段と引き上げていかなければいけないことを踏まえると、軽減税率に代わって、税率引き上げに相当する金額を所得税から控除し、納めている税額がそれに満たない層には差額分を給付するという「給付付き税額控除」を導入すべきだろう。この仕組みが逆進性を是正する効果は大きく、所得格差が拡大していくなかで、所得再分配政策としても有用だ。
高齢者向けの年金・医療・介護は抑制せよ
社会保障の財源を確保すると同時に、社会保障給付の見直しも避けられない。そもそも、わが国の社会保障給付は、高齢者向けに大きく偏っている。手薄な現役世代向けサポートが、若年層のリスクテイクを阻害する一因となっていることを踏まえると、現役世代向けの家族や住宅、雇用関連に対する支援をもう少し手厚くし、逆に、高齢者向けの年金・医療・介護については、抑制の方向で見直していく必要があるだろう。
社会保障給付に関して、見直すべき点は多岐にわたるが、とりわけ、足元の39兆円から2040年度には60兆円台後半まで給付費が膨らむ見込みの医療に関しては、早急な制度改革が必要だ。
まず、現行の高齢者の負担軽減について見直していかなければいけない。年齢別の世帯所得分布をみると、世帯主が29歳以下では、平均未満(5段階に分類したなかで下位2段階)の所得しか有していない世帯が約6割いるのに対し、75歳以上世帯こそ同様に約6割いるが、65歳から69歳以下の世帯では約4割にとどまる。わが国の金融資産の保有が高齢者に集中している現状を踏まえると、65歳以上の高齢者よりもむしろ29歳以下の世帯の方が、全体として厳しい状況に置かれているとみることもできる。
もはや高齢者が経済的側面では必ずしも弱者ではなくなっている以上、年齢で一律に負担を決めてしまうのではなく所得、あるいは、それに資産も加味したうえで負担能力に応じて差をつけていく方向に見直していかねばならない。
高齢者医療費についても検討が必要だ。医療費の年齢階級別内訳をみると、80歳以上で13%、70歳以上で48%を占めている。高齢になるに従い、医療に頼るケースが増えていくのは避けられないが、医療の高度化が進むなか、現行の制度のままでは、高齢化の進行とともに、ますます医療費が増大していく。
医療保険制度を支える現役世代が疲弊すれば、国民皆保険制度そのものが成り立たなくなってくる恐れもあるだけに、終末期も含め、どこまで医療保険制度に頼るべきか、国民的な議論をしっかり行っていく必要があるだろう。