毎年小刻みの引き上げなら景気への悪影響は小さい

増加する社会保障費の財源を確保するには、各種控除等を見直すと同時に、税率・社会保険料率を引き上げていくしかない。このうち、法人税率の引き上げについては、国際的な税率引き下げ競争が行われるなかで、日本は相対的に高税率であることから、選択肢とはなりえない。個人所得税・社会保険料の引き上げについては、控除の見直しや税率引き上げ余地はあるが、それらを負担する現役世代の数は、少子化が進むなかで先行き一段と減少していく。

現役世代への負担を大幅に引き上げれば、労働インセンティブの低下、少子化加速など、経済・社会に悪影響を及ぼしかねない。そもそも、後期高齢者医療保険(75歳以上の全国民が対象)が、保険料の多くを現役世代向けである被用者保険からの資金支援で賄われるという現行の制度のもとでは、制度改革をせずとも現役世代の保険料を着実に引き上げていかざるをえないという事情もある。

八方ふさがりに見える状況のなか、高齢者に就労を促し、現役世代同様支える側に回ってもらうことは一つの有力な選択肢ではある。ただし、少子高齢化が進むなかにあっては、一時しのぎにしかならないのも事実だ。やはり、社会保障の安定的な財源としては、現役世代に過度に依存しない、幅広い世代で負担する消費税のさらなる引き上げによって賄っていくことが、最善の選択肢といえる。

ちなみに、仮に国民負担率を50%まで引き上げ、それをすべて消費税で賄うとすれば、消費税率を17~18%台まで引き上げる必要がある。実際には、個人所得税や社会保険料なども充当していくとしても、やはり消費税率を少なくとも15%程度までは引き上げていかなければいけないだろう。

実際に消費税率を引き上げるに当たっては、景気への影響を十分に勘案する必要がある。仮に消費税を1%引き上げた場合の負担額は約2.8兆円、0.5%引き上げた場合は約1.4兆円の負担増となる。

これに対し、社会保険料の企業負担分を除いた雇用者報酬が、景気回復局面では年1兆~5兆円強のペースで増加している。このことから、景気後退局面を除けば、毎年0.5%の引き上げであれば、景気の大幅な悪化は回避可能であり、低所得者対策をしっかり行えば、1%の引き上げでも景気に深刻な悪影響を及ぼさずに乗り切ることができる。

これまでのように数年に1回大幅に引き上げることで大騒ぎするよりは、小刻みに淡々と小幅引き上げていく方が、景気へのダメージが小さく、また、政治的な影響を排除できることで、着実に引き上げることができるだろう。