“簿記”はどのようにして生まれたのか。会計史研究家のルートポート氏は「人類最古の文明のひとつであるメソポタミア文明には、簿記と呼べるものがすでに存在した。文字のない時代から人類は“貸し借り”を管理してきた」と読み解く――。
※本稿は、ルートポート『会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
哺乳類のなかでヒトだけが持つ武器
ヒトの脳は、何のために進化したのでしょうか?
約300万年前のアウストラロピテクスの脳は、現在のチンパンジー程度の大きさだったと分かっています。
ヒトの脳の進化について一般的には、「狩りのために発達した」という説があります。道具を使って獲物を捕らえ、肉を切り裂き、火を使って加工する――。たしかに、他の動物に比べれば高い知能が必要な作業でしょう。しかし、アフリカのサバンナで進化したライオンやチーターなどは、ヒトよりも小さな脳で立派に狩りを成功させています。狩りのためだけなら、私たち現代人ほど大きな脳は要りません。
じつは、あまり知られていないのですが、ヒトには他の動物にない「強力な武器」があります。
「群れの仲間とうまくやる」ための進化
私達の脳がここまで大きく進化した理由として、現在では「マキャベリ的知性仮説」と呼ばれる説が有力視されています。ざっくり言えば、私達の脳は群れの仲間と協力したり、裏切りを監視したり、ときには誰かを欺くために進化した、というものです。
たとえばあなたが野生のサルだったとして、2頭だけの群れで生活しているところを想像してください。あなたが把握しなければならない人間関係(サル関係)は、ひと組だけです。しかし、3頭、4頭と群れが大きくなれば、そのぶん把握すべき関係も増え、同時に高い知能も求められるようになります(図表1)。
ちなみにサルは「友達の数」を、毛づくろいをするかどうかで調べることができます。人間が仲のいい友達とおしゃべりを楽しむように、毛づくろいでお互いの関係を確認するのです。