文明のある都市に「簿記」が生まれる

古代メソポタミアもインカ帝国も、「文字」よりも先に「簿記」が生まれています。もしかしたら、これは中央集権的な国家が成立した地域の普遍的な現象なのかもしれません。

農耕が発達して余剰食糧が生産できるようになると、王や官僚(生産活動に従事しない特権階級)を養うことが可能になります。彼らが食べていくには、徴税・貢租が欠かせません。

また、王とその取り巻きが暮らす地域には人口が集中し、やがて都市が形成されます。農民たちは定期的に都市に集まり、祭市で収穫物を売買するようになります。そして彼らのなかには、いちいち農地と都市とを往復しなくても、都市で倉庫を持てば、商品を保管して売買することで効率よく利益を上げられると気づく者が現れます。

これこそが「商人の誕生」です。

官僚たちの徴税にも、商人たちの取引にも、記録をつけることは重要です。都市が生まれるほど発展した人間社会では、ごく自然に簿記が生まれるのでしょう。

日本にも記録方法があったかもしれない

日本は中国から漢字を移植しました。しかし、それ以前から中央集権的な国家は生まれています。もしかしたら文字を使い始める以前の日本にも、トークンやキープのような記録方法はあったのかもしれません。

難しい歴史背景や経済理論を抜きにしても、「簿記」や「会計」という切り口から歴史を眺めるだけで、当時の人々の営みをありありと感じることができます。

ヒトの進化と会計の歴史は、これほど密接にかかわっていたのです。

ルートポート
会計史研究家、ブロガー
1985年、東京都生まれ。ブログ「デマこい!」を運営。「くらしの経済メディア MONEY PLUS」にて、「簿記の歴史物語」を連載中。また、コミックの原作者としても活躍している。主な著書に『会計探偵リョウ・ホームズ』(KADOKAWA)、『失敗すれば即終了! 日本の若者がとるべき生存戦略』(晶文社)。『女騎士、経理になる。』(小説版、コミック版ともに、幻冬舎コミックス)がある。
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