AIやIoTが奪う「考える力」

現代人のセンスが衰えているのは、皮肉なことに便利なツールによる影響も少なくありません。AIやIoTの登場によって生活は楽になっていくばかりですが、これが考える力の低下につながっていることは明らかでしょう。ツールを使うこと自体は否定しませんが、丸呑みする前に注意しておきたいところです。

考えてみると、自動車が生まれたことで人間の脚力は大きく低下しました。実際、かつて東海道五十三次を歩いていた頃に比べると、日本人の多くの脚力は失われているのではないでしょうか。そしてごく一部のトレーニングを行っている人だけが脚力を保っている。

そういった意味で、これからはセンスを磨くためのトレーニングも一般的になるかもしれませんが、自分の感覚に自覚的になることは、今すぐできるはずです。昨今はデザインシンキングなど、とかく「思考法」が話題になりますが、思考よりむしろ、「気持ちわるい」「心地よい」といった感覚を大事にすることが、センスを磨くうえでは意味があると思います。

2カ月で200本の映画を見てマーケティングを学んだ

また、文化・芸術に関わる作品に触れることも有効だと思います。私自身のことを振り返ると、博報堂に入社した当時、マーケティングの発想を培うために相当な数の映画を見ていました。休日も含めると、2カ月で200本程度は見ていたでしょうか。

それだけ集中して映画を見ていると、グッと響くシーンのパターンが見えてきます。そうすると、だんだんと人の心に届く広告の作り方が感覚的に分かってくる。『センスメイキング』の書籍では、文学や歴史、哲学などの人文科学から審美眼を磨くことを提唱されていますが、私自身の経験からも、業務と一見関係のないことが仕事に必要なセンスを高めてくれることがあると確信しています。

センスを磨く方法に近道はありません。エッセンスだけを抽出したガイドブックを読んでいても効果は期待できませんから、じっくりと時間をかけ、答えを探す行為そのものに意味があると信じて取り組むと良いでしょう。