景気が安定しているうちに収益の持続性を高めるべき

突き詰めて言えば、日立は今後の世界経済の展開を念頭に置き、エネルギー関連事業のビジネスモデルの変革・再構築に着手したと考えられる。ポイントは、リスクを抑えつつ、収益獲得の持続性と収益の安定性を高めることだ。

今後の世界経済の展開を考えると、2019年前半は米国経済が支えとなり、世界経済は安定感を維持するだろう。しかし、未来永劫、景気回復は続かない。2019年後半から2020年にかけて、米国経済の減速が鮮明化し、状況によっては失速する可能性がある。それは世界経済の成長鈍化につながるだろう。

企業の経営者に求められることは、景気が安定しているうちに収益の持続性を高めることだ。そのためには、コスト水準、事業リスク、市場シェアなどの点で収益獲得が見通しづらい事業を見直すことが求められる。同時に、安定して収益が得られるメンテナンス事業などを強化することも必要だ。

「風力発電機生産」からも撤退を決めた背景

1月25日、日立は風力発電機の生産から撤退すると発表した。その上で、同社は風力発電機の世界大手である独エネルコン社との提携を強化し、インフラの保守などに関するソリューション分野に注力する。

景気の不透明感が高まる中、資本支出を伴う再生エネルギー発電施設の需要は低下するだろう。加えて、風力発電機市場では、欧州や中国企業のシェアが大きい。短期間に日立がシェアを高めることは容易ではない。

それよりも、インフラ分野でのイノベーションを重視して日立がコミットしてきたIoT(モノのインターネット化)などの技術を生かして、インフラのメンテナンス事業を強化することは、経営資源の効率的な運用と安定した収益基盤の獲得につながるだろう。日立によるスイス重電大手ABBのパワーグリッド(送配電)事業買収の背景にも、収益基盤の安定性と持続性を高める狙いがある。

原子力発電所建設プロジェクトの凍結は、日立のビジネスモデルのリスク・リターンのプロファイル(特性)を向上させることにつながると思料する。同社が、海外企業とのアライアンスなどを強化し、一段と強固な収益基盤の獲得を目指すことを期待したい。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(写真=AFP/時事通信フォト)
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