1時間1000円でハイボールだけ飲み放題

社員食堂なので月曜から金曜までの営業だが、最近では、週末にこの場所を使って地元のイベントが行われることも多い。

食堂でたまたま話題に出た本の著者を招いてトークセッションを行ったり、鎌倉への移住を考えるイベントをしたり。近隣の飲食店と連携して、そのままでは廃棄物となる食材を使ってフードロスゼロパーティを開いたり、地元で採れたハチミツを使った子ども向けの料理イベントを開催した人もいたし、年末にはアーティストを呼んでライブも行われた。

10月からは、毎週土曜夜限定で、ハイボールのスタンディングバー「タイムカード」を始めた。1時間1000円でハイボールだけ飲み放題になるもので、週末に場所を遊ばせておくよりは、と始めた取り組みだが、多い時は100名近い人が訪れるようになっている。コミュニティを活性化できるように、地元の人たちに一日店長をお願いしているが、和服でやってきてひたすら昭和歌謡を流す一日店長がいたりして、週ごとに店長の色に店が染まり、異様な盛り上がりを見せている。

山形出身のカフェオーナーは地元の自然薯とろろを提供。

ドリンクやフードは持ち込み自由だが、近所のコンビニで買ってくるスナックや缶詰にとどまらず、葉山の名物コロッケを買い込んできてくれる人はいるわ、スーパーで刺し身盛り合わせを買ってきてくれる人やら、蕎麦やピザの出前を取り始めようとする人が後を絶たない。

持ち込みがきっかけとなって、ドリンクやフードをシェアすることで、知らない人同士も仲良くなってしまう。最近では、都内の大手メディア編集長や大学教授が一日店長に駆けつけてくれる週もあり、不思議な発信の場になりつつある。

土曜日の営業に限り、鎌倉市で働く人でなくても利用できるので、最近では「鎌倉に移住してみようかな」と考える人が都内から遊びにきてくれることも増えた。

住む場所、働く場所を自分たちで選ぶ

今までありそうでなかった場。そういっていただくことが多い。

なぜ、こういう場ができたのですか? そんなご質問もいただく。

ひとつは、鎌倉という場の力だと考えている。人口16万人というサイズ。「鎌倉で働く人のためなら」と一肌脱ごうというお店の多さ。そして、もともとのコミュニティの活発さ。

鎌倉では地域に根づいたコミュニティの活動が盛んだと思う。有志で浜の盆踊り大会を主催する人。クリエイターのネットワーク。誰か一人の仕掛け人がいるというよりも、自分のやりたい世界を明確に描いている人たちがあちこちにいて、その点と点がゆるやかにつながっている印象を受ける。

鎌倉市農協連即売所では新鮮な野菜を農家から安く買うことができる。

カヤックは企業文化としてブレスト(いわゆるブレーンストーミング)を大切にしているが、2013年に鎌倉のIT企業7社とともに、鎌倉を盛り上げるための地域活動、「カマコン」を立ち上げた。「自分たちの住む地域をもっと面白くしたい」そんな思いを持ったメンバーたちが、ブレストを通じて、鎌倉の選挙を盛り上げるアイデアや空き家活用の取り組みなどを次々と生み出している。

自分が移住を検討したとき、二拠点生活の家を貸してくれた人は、このカマコンで知り合った人だった。取材をきっかけに、二度か三度お会いしただけのゆるいつながり。そのゆるいつながりが、人生に大きな変化をもたらした。