観光地でランチが高いから、「まちの社員食堂」へ
毎朝、頭上を旋回するトンビを見ながら通勤する。海岸通りをジョギングしてから家を出ることもある。空が広く、山の斜面の木々が少しずつ色づいたり、葉を落としたり、海がきらきら輝くのを見ながら、てくてく歩く。通勤電車は江ノ電で、12分に1本しかこない(もちろん単線)。個人商店で買い物することが多くなった(そもそも大手チェーンの店が少ない)。時間があれば市場に出かけ、朝採れの野菜を農家さんから買う。魚は魚屋で、近海ものをさばいて150円とかで刺し身にしてもらったのを買う。米は米屋で精米してもらう。
もちろん困ることもある。たとえば昼休みにランチを食べにいこうとすると、観光地なので、お店が混んでいる。そして高い。1200円とか1500円のランチが珍しくない。
そんなときは「まちの社員食堂」に出かける。2018年4月に立ち上げた、鎌倉市内で働く人のための社員食堂である。前年秋に立ち上げプロジェクトにアサインされ、なぜかそのまま広報と兼務で食堂事業を担当している。
店の入り口で、ストラップに名刺を入れて入店する。鎌倉市に拠点を置く企業30社が月会費を払って会員企業となり、その会社に勤める人は100円引きになる。
料理は、地元のお店が週替わりで提供してくれる。たとえば、ある週には、地元で人気のおそば屋の店主がおそばを茹でにきてくれる。別の週には、人気ジャム屋さんのオーナーがお手製のポトフやカレーに腕をふるってくれる。朝ごはんは、焼きたてクロワッサンに特製ジャムがつけ放題だった。
そして、ここにくると、誰かに会える。地元で働くさまざまな人たちが集まるコミュニティスペースとなりつつある。
鎌倉市役所の職員も利用する「まちの社員食堂」
「まちの社員食堂」の会員企業に参画しているのは、主に鎌倉に本社を置く会社で、鳩サブレーを製造する豊島屋、メーカーズシャツ鎌倉、鎌倉投信はじめ、地元のベンチャー企業も多い。鎌倉にはコワーキングスペースも多いが、この食堂を利用者の福利厚生にしているところもある。鎌倉市役所なども名を連ねている。
昼時にふらりと食事をしに行くと、地元のベンチャー企業の経営者が打ち合わせして、そのとなりで市の職員たちが食事している。セルフサービスの列の中で、別の会社の人同士が偶然顔を合わせて、「そういえば、この間の件ですけど」とトレー片手に打ち合わせの続きをしたり、顔を合わせたついでに「紹介しておきますよ、東京からいらした○○さん」と名刺交換が始まったりすることもしょっちゅうだ。
「まちの社員食堂」に出店しているお店も個性ゆたかだ。わざわざスイカを買い込んで、一日の来客数が100人を超えた記念に店内でスイカ割りを始めたカフェオーナーもいたし、ある時は、お店に行くとサツマイモが山積みでキロいくらで売られていた。「このサツマイモなあに?」とスタッフに聞くと、天候不良で形がいびつになってしまい、そのままでは捨てるしかないと、地元の農家さんから泣きつかれたその週のご出店者が販売しているという。厨房でつくられたおいしいスイートポテトがカウンターに並び、サツマイモは数十キロが完売していたようだ。