――星野さんはどうしてプレジデント誌の編集者になろうと思ったんですか?

大学は文学部で、社会学を専攻していました。ビジネス誌にはまったく興味がなかったのですが、転職先を探しているときに、はじめて真面目に読んで「割とおもしろそうな雑誌だな」と思って入りました。ちょうど読んだ特集は、「ビジネスマン全課題」という毎年恒例の内容で、「子供がグレた」「妻に無視される」「部下がいつも忘れ物をする」といったさまざまなお題を、ありとあらゆる識者に聞くというものだったんです。「子供を殴ってもいいか」というお題を機動戦士ガンダムの富野由悠季監督に聞く、といったむちゃな企画がてんこ盛りでした。

編集部に入って、経済や企業のことを取材するようになり、お金は世の中を動かす一番重要な要素だと痛感しました。たとえば民事裁判でも、最後はお金なんですよね。すごく反省して、ビジネスまわりのことは熱心に勉強しました。プレジデントはビジネス誌ですが、すごく懐が広く、雑誌的なおもしろさを体現しています。その良さはオンラインでも引き継がなければと思っています。

――それではプレジデント誌とプレジデントオンラインの違いは?

特に違いを出す必要はないと思いますが、違いがあるとしたらタイトルと記事の分量です。雑誌は表紙を見てパッケージで買ってもらえますが、オンラインは1本ずつ読まれるのでパッケージにしづらい。検索エンジンやSNSから直接記事に入ってくる人も多く、トップページが「表紙」になるとは限りません。だから雑誌以上に、タイトルやリードで「なぜ今この記事が必要か」を説明するようにしています。

社内の書棚には「プレジデント」の約50年分の「合本」が収められている。

――他のオンラインメディアとの違いは?

プレジデントオンラインはビジネスに軸足のある、雑誌出版社発のメディアです。そこに強みがあると思います。うちの会社には記者はいません。いるのは「編集者」だけです。編集者とは、企画を立てる専門の人間です。記者は足で稼いで新しいネタを掘り出します。編集者は読者がいま何を読みたいのかを徹底的に考えます。その企画が際立っているかどうかがわれわれの価値です。

「ビジネス誌」というジャンルでは、プレジデントは市販で最も売れている雑誌です。他誌にもさまざまな強みがあると思いますが、われわれの部数が多いのは、「読者がいま何を読みたいのか」を徹底的に考える文化があるからだと思います。

最近では日産のカルロス・ゴーン元会長が逮捕されたとき、<「ルノーの乗っ取り」を防いだ日産の苦悩>という記事を出しています。どこよりも深い記事を、どこよりも早く出せたのは、安井孝之さんの卓越した取材力と、読者目線を徹底する私たちの力が合わさった結果だと思います。

――世の中を見る時、どう見ていますか?

想像力を働かせます。世の中のほとんどの事象には人間が関与していますよね。人間を善悪や正邪でとらえてしまうと本質をとらえ損ねると思います。「週刊新潮」を創刊した齋藤十一氏は「人間は誰でもひと皮むけば、金と女と名誉が大好きな俗物」と言っています。私なりに解釈すれば、聖人の後ろめたいことを考えるだけでなく、悪人のやさしさにも目を向けたいんですよね。

――メディアの役割とは?

よく言われるのは「権力の監視」ですよね。そんな大それたことができるとは思っていませんが、「聞きづらいことを聞く」というのはメディアの役割だと思っています。

2015年、日本マクドナルドの社長だった原田泳幸さんが、ベネッセの社長に転じたとき、雑誌で取材をする機会がありました。ベネッセは個人情報流出という事故を起こしたばかりで、マクドナルドでも異物混入という事故が起きていました。ネットでは「原田氏は疫病神だ」と言われていました。そこで本人に「疫病神だと言われていますが、そうなのですか?」と聞きました。プレジデントの誌面に載った記事には「疫病神批判に答えよう」というタイトルがつきました。

こういう質問に怒る人もいます。でも誰かが聞かないと、「あの人は疫病神だね」で終わってしまう。本人がどう思っているのかは聞かないとわかりませんし、本人も聞かれなければ答えようがない。そこが第三者であるメディアの役割だと思います。礼を尽くし、筋を通して、きっちり問いただすことができれば、新しい事実が明らかになり、いろいろな人の想像力を豊かにすることができるはずです。

プレジデントオンライン編集長・星野貴彦

――プレジデントオンラインの現状は?

毎月250本程度の記事を配信しています。私が編集部に入ってからは成長を続けていて、11月度には「4288万PV」(外部配信を含まず)とページビュー数で過去最高を更新できました。PVと記事の質、いずれもさらに高いレベルへ引き上げていきたいと考えています。

――どういう態勢で記事を出しているのですか?

プレジデントオンライン編集部は、編集長が1人、社員の編集者が3人、業務委託の編集者が6人で、計10人の態勢です(※12月現在。1月からは社員の編集者が2人で、計9人)。このほかにもフリーランスの編集者や、社内のほかの編集部からも協力をあおいでいます。

このほか記事の配信については、「デジタル制作管理部」が、進行管理や外部パートナーとの連携、ストックフォトの手配などを担当しています。編集部は「いい企画を立てて、いい記事を出す」ということに集中しています。

――いまプレジデントオンラインでは中途採用をしていますね。どんな人に来てほしいですか?

とにかく「なぜ?」が思い浮かんでしまう人が向いていると思います。常識を疑う人、世間に対して疑問が多い人、といってもいいかもしれません。ただし、そのときに「謙虚さ」も忘れないでほしいですね。社会学者の宮台真司さんに聞いた<バカほど「それ、意味ありますか」と問う>という人気記事があります。謙虚に「なぜ」を積み重ねられる人が、よい編集者ではないかと思います。

いまの世の中、真実に最短ルートで到達するのは難しいと思います。どちらかというと、真実にたどり着けないことのほうが多い。そのとき「これが真実だ!」と決めてかかったほうがラクなんですが、それでは考える余地がなくてつまらないと思うんです。自分はなにも知らない。真実は自分の思っていることとは反対かもしれない。そうして思考を深めたほうが、おもしろいはずです。読者にとっても、編集者にとっても、思考の手がかりになるような記事を、一緒に出していければと思います。

星野貴彦(ほしの・たかひこ)
プレジデントオンライン編集長
1981年生まれ。2004年慶應義塾大学文学部卒業、日本放送協会(NHK)入社。記者として甲府放送局に勤務。06年プレジデント社へ。プレジデント編集部を経て、17年プレジデントオンライン副編集長。18年7月より現職。
(撮影=小野田陽一)
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