喫茶店にとって、「コーヒーの味」はどれくらい重要か。ドトールコーヒーでは「こだわりの集大成」として、1杯1026円のコーヒーを出す「神乃珈琲」という業態を展開している。その最大のこだわりは「コーヒーの味」だ。空間や接客サービスではなく、ドトールがあくまで「味」にこだわるのは、なぜなのか――。
神乃珈琲 京都店外観(画像提供=ドトールコーヒー)

220円と1000円超の“原価”はどれだけ違うのか

喫茶店にとって「コーヒーの味」はどれだけ重要なのか。「座って休めればいい。味なんて二の次」。中にはそういう客もいる。そうした客は頼んだドリンクに口も付けず、スマホなど、目の前の関心ごとに熱中する。たしかにニーズは多様化した。喫茶業界でも、広い座席やテーブル、Wi‐Fi、電源コンセントといった設備に力を入れる店が増えてきた。

だが喫茶大手のドトールコーヒーは、設備を充実させながらも、あくまでもコーヒーの味にこだわる。その象徴が、グループ企業が手がける「神乃珈琲」(かんのコーヒー)という店だ。

運営会社の社長は菅野眞博氏。ドトールコーヒー常務取締役も兼任し、店名は同氏の名前から取った。現在は、東京・銀座(東京都中央区)、同・学芸大学(目黒区)、そして京都・四条烏丸(京都市中京区)の3カ所。店によって価格は異なるが「神乃珈琲 銀座店」では、こだわりのブレンドコーヒー(2種類)を各1026円(税込)で提供する。

国内に1115店(2018年10月現在)を展開する「ドトールコーヒーショップ」(以下「ドトール」)は、ブレンドコーヒー(S)を1杯220円(税込)で提供している。なぜここまで価格が違うのか。そして、なぜドトールは、価格帯がまったく異なる店を同時展開するのか。菅野社長に聞いた。

3回飲み比べれば、味の違いがわかるようになる

「ドトールコーヒーには、毎年60~70人の新入社員が入社しますが、入社直後にブラジルとコロンビアのコーヒーを飲ませ、味の判定をさせてもわかりません。でもフルーティーさ、雑味などの判断基準を教えると、3度目には8割程度の人が学習効果でわかるようになる。現代の消費者も繰り返し体験することで、コーヒーに対する『舌』は肥えました。スペシャルティコーヒーのような高品質のコーヒーを好む人もいれば、コンビニの100円コーヒーの味が好きな人もいる。そうした多様化する消費者ニーズに応えるのが使命です」

店内で自らコーヒーを淹れながら、菅野氏はこう説明して続ける。

「一方で、業界にいる私たち専門家は、本当に特別なコーヒーを徹底訴求してきたか。神乃珈琲は、それを体験していただく店なのです」

特にその世界観を示すのは銀座店と京都店だ。ブレンドコーヒーは2種類。グアテマラ産ゲイシャ種を使用した「陽煎(HI‐IRI)」と、エルサルバドル産ティピカ種を用いた「月煎(TSUKI‐IRI)」がある。この2店に比べて、焙煎工場にカフェスペースを設けた学芸大学店はカジュアルな雰囲気で、コーヒーも500円(税込)からだ。