フットプレートには穴が空いている

金属製との違いは他にもある。金属製の車いすは座面が薄く、長時間座っていると疲れるという声があった。そのため木製の座面にはクッションを敷いた。そのクッションにもこだわりがあり、太ももから膝にかけての部分が山型に少し膨らんでいて、体がずり落ちないように工夫されている。

また足を載せるフットプレートには穴が空いているのだが、これはヒールを履いている人が座ったときに、足を楽に載せやすくするためのアイデアだという。さらに従来の金属製車いすにはなかった荷物置きを足元に設置。利用客が便利なだけでなく、乗客の荷物を持って車いすを押していたスタッフの負担も軽減される工夫だ。

「細かい修正は本当にたくさんしています。例えば、階段や段差を上がるときに踏むティッピングレバーの滑り止め。もともとは滑り止めシールを貼っていたのですが、使用しているうちに剥がれやすくなってしまうため、本体に入れ込んだ形に改良しました。他にも、持ち手部分の固定具合を強くするなど、実際に現場の空港スタッフが使ってみて“こうしたほうがいいのでは”という意見は、なるべく反映するようにしています」(黒木さん)

ワイドタイプの木製車いすを導入(撮影=プレジデントオンライン編集部)

車いす利用者はさまざまだ。ある人にとっては必要な機能も、別の人にとっては無用という場合もあるだろう。それだけに木製車いすを改良する際に黒木さんが心がけているのは、「選択肢を増やすということ」だ。

「最近でいえば、機内の通路を通れるアイルタイプではなく、体の大きなお客さまや外国籍のお客さまでもゆったり座れるように、“ワイドタイプ”の木製車いすを導入しました。サイズが大きいため機内の通路には入れませんが、保安検査はそのまま通過できます。どちらを使うかを選ぶのは、お客さまです。私たちは選択肢を増やしていければと考えています」

 

検査場を通るのが楽しみになった

福祉機器メーカーであるキョウワコーポレーションのノウハウも大きいと、黒木さんは強調する。

「私たちは車いす作りのプロではありません。“こういうことを実現したい”と伝えたときに、キョウワさんから“こう実現したほうがいい”とアドバイスをいただきながら、改良を進めています。車いすの形状や寸法を守るべき規格に沿いながら実現してくれるため、安心してご利用いただけます」

木製車いすは12月にアイルタイプを60台、ワイドタイプを20台追加した。現在、JALが全国の空港に配備している車いすの約半数が木製だ。今後も木製車いすを増やす予定だが、雪や雨に強いといった性能面での強みがあるため、金属製車いすも併用していく方針だという。

さり気ない優しさと利便性を追求して作られたJALの木製車いす。エアポートでの出会いと旅立ちに欠かせないバリアフリーとして定着する日は近い。

呉 承鎬(お・すんほ)
ライター
1982年5月7日生まれ、東京都出身の在日コリアン3世。大学卒業後、出版社勤務を経て、編集プロダクション・ピッチコミュニケーションズに所属。『スポーツソウル日本版』副編集長。編著書に『韓国インテリジェンスの憂鬱』(KKベストセラーズ)、訳書に『つねに結果を出す人の「勉強脳」のつくり方』『サムスン式仕事の極意―超一流の結果を出す』(ともに日本文芸社)など。
【関連記事】
JALの地上職員は小さな「っ」を使わない
頭がいい子の家は「ピザの食べ方」が違う
"期待した子の死"に悩む障害児の親の半生
アマゾンが10年以内に失速する5つの理由
看護師の妻と暮らす夫は最強の「勝ち組」