「一軍の指揮官は、1人であるべき」
私がマキアヴェッリを読むようになったのは、米国子会社の社長をしていたころです。事業にてこずっていたら、取引先の経営者から、「参考になるかもしれないから、マキアヴェッリを読むといいよ」と薦められました。
最初、英語で読んだら難しくて、翻訳書を読んだら注釈が多くて読みにくい。それから塩野七生さんの『マキアヴェッリ語録』を読んだところ、非常にわかりやすく、腑に落ちました。影響を受けたというより、「ああ、自分のやってることは間違ってなかった」と確信しました。
たとえば、マキアヴェッリは、「恩恵は、人々に長くそれを味わわせるためにも、小出しに施すべきである」という言葉を残しています。要するに、「経営者はケチであれ」というわけです。社員からは総スカンを食うかもしれないけれど、全く同感です。
好業績のときでも利益を内部留保し、業績が悪いときに取り崩して、金額は少なくてもボーナスに上乗せして支給し続けたほうがいい。キャッシュフローが潤沢になれば、社員を長期に安定雇用することもできます。はたしてどちらのほうが、喜ばれるでしょうか。
マキアヴェッリは、君主たるもの信頼できる部下に意見を求めることはあっても、最終的には「一軍の指揮官は、1人であるべきである。指揮権が複数の人間に分散しているほど、有害なことはない」とも記しています。私も大事なことは1人で決めます。まわりの意見は、あまり役に立たないので。
たとえば、新しいコンセプトの商品の場合、担当の研究開発グループ以外の社員は、まず商品化に反対します。過去のデータがないだけに、成功する保証がないからです。
だからといって、引き下がってしまっては、商品開発なんてできません。そんなとき、「これはいい」と私が判断したら、ゴーサインを出します。いい例が『脱臭炭』。社員や取引先がみんな反対したのを押し切って、世に送り出したら大ヒットしました。むしろ、みんなが反対したときほど、商品化には熱が入ります。成功したら、「あの人にはかなわん」と全員、私にひれ伏すでしょう。それが楽しみですね。
独裁はいけないかもしれないけれど、独断専行の部分がないと経営はうまく回らない。本書にも「愛されるよりも怖れられるほうが、君主にとって安全な選択であると言いたい」と書かれていました。怖れられるぐらいでないと、改革なんてできませんから。