深圳市の中心部には「華強北」と呼ばれる部品供給の市場がある。このスケールが桁外れに大きい。店舗数は日本の秋葉原の30倍と言われている。ある10階建てのビルをのぞいてみると、小さな多くの売り場が密集していて、パソコン、スマホ、ゲームなど、あらゆる電子機器の部品を売っている。1階から10階までに3000店舗あるという。このようなビルが深圳には28あり、全体の来場者は一日50万人に達するのだという。

電子部品のデパート「華強北」

このマーケットの周辺には、インキュベーター(メーカースペーズ)と呼ばれるベンチャー製品を製造するスペースが250カ所もある。近くの「華強北」から部品を購入してきて、このインキュベーターに持ち込めば、簡単に製品化できてしまう。現地で聞いた話だが、スマホの部品を1台200元で買い集めて製品にし、それをeコマースでアフリカに1台400元で売って大儲けした者がいたという。

財政豊富な深圳市が多額の補助金

もう一つの「カネ」もふんだんにある。大きく分ければ、資金には(1)補助金(中央政府、深圳政府)、(2)ベンチャーキャピタル、(3)成功したベンチャー企業による投資、という三つのソースがある。

補助金は中央政府からもあるが、それよりも深圳市からの補助金の規模の大きさに驚かされた。とにかく深圳市は市民の年齢が若いので、社会保障にそれほど予算を回さないで済む。しかも成功したベンチャー企業が続々現れているので、税収は増える一方。つまり中国の中では、飛び抜けて財政資金に余裕がある。

理工系でトップの清華大学(北京)が深圳に分校(大学院のみ)を持っていて、現在の在校生は3027人(修士2683人、博士344人)である。これまでに累計1万1000人(修士1万人、博士1000人)を卒業生として送り出している。ここには年3億元(約50億円)の科学研究費が与えられている。ちなみに日本の東京工業大学は、本校全体で45億円である。

ベンチャーキャピタルも多額の資金を投入している。中国全体のベンチャーキャピタル(2017年)は、日本円にして約4兆5000億円で、米国のほぼ半分。しかしいまの伸び率から言えば、数年後には米国を抜く勢いである。日本はわずかに2700億円余りなので、いかに少ないかが分かろう。

深圳は中国全体の約2~3割を占めているので、深圳だけで日本の4~5倍のベンチャーキャピタルがあることになる。深圳には著名なベンチャーキャピタルが約100社もあるという。

もうひとつ特徴的なのは、大きく成長したベンチャー企業、例えばSNSを提供するテンセントとか、通信機器を製造するファーウェイ(華為技術)などが新たなベンチャー企業に活発な投資を行っていることである。こうした投資の循環は、日本にはない。日本の大企業は巨額の内部留保を持っているが、なかなかベンチャー企業には投資しないのが現状である。

ユニコーン企業が相次いで登場

ベンチャー企業は「A」「B」「C」「D」の4段階に分けられている。生まれたてのベンチャー企業は「A」以前である。どこかから融資を受けられるようになって初めて「A」段階となる。実際に製品を販売し始めると「B」段階、そして利益を上げ始めると「C」段階になる。さらに発展して上場も近くなってくると「D」段階である。さらに「D」段階を卒業してユニコーン企業(企業としての評価額が10億ドル以上)となるベンチャー企業もいくつか出てきている。

もっとも多くは「A」以前の段階で消えていき、最後までたどり着くのは宝くじに当たるよりも難しい。

業種としては、ネット関係の多いことが特徴であろう。ファーウェイ、OPPO、VIVO、ZTE(中興通訊)といったスマホ携帯の会社は、ネット関係の代表である。世界の順位はファーウェイがアップル、サムソンに次いで3位、OPPO、VIVOがそれぞれ4位、5位を占めている。