「単純かつ致命的なエラー」はGoogleでも起きた

もちろんIP化といっても、通信機器がオープンなインターネットに「むき出し」になっているわけではない。またこうした事態に備えて、通信事業者や通信機器ベンダーはさまざまな対策を事前に講じてきた。

システムの冗長化や多重化、または複数ベンダーを採用して完全に別の系を作り出すことに取り組んでいる企業は多い(コスト削減を理由に取り組んでいない企業もあるが)。しかしそうした対策は万全ではなく、むしろ今回のような単純かつ致命的なエラーが、「そんなことは想定外なので結局は対策できなかった」という理由で起きてしまう。

実際、2017年8月25日には、Googleが間違った経路情報(ネットワーク間の接続に必要な情報)を誤って流したことによって、日本を中心としたインターネットの一部が数時間使えなくなるという事故も起きた。今回とは対象も構造も原因も異なるが、「びっくりするほど単純な間違いで、インフラがあっさり使えなくなる」という意味では、似たような話である。

12月7日現在、ソフトバンクのウェブサイトには「おわび」が掲示されている。

デジタル化にともない「信頼」を再構築する必要がある

その意味で、今回5時間弱での復旧を果たしたソフトバンクとエリクソン・ジャパンの関係各位の努力には、一定の敬意を表したい。もちろん、総務省からの行政指導が想定される重大事故であり、彼らはその責任から免れない。だからわれわれが彼らを批判することは簡単だ。

しかし現時点では「事故は起きうるもの」であり、インフラ事業者とて万能ではない。だからこそ、事前対策だけでなく事後対応に向けた備えも、次善の策として重要なのだ。

デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、トラスト(信頼)を再構築する必要に、私たちは迫られている。そしてしばらくの間は、かつてのような社会システムの安定とは異なる状況を、ある程度は受け入れなければならないのかもしれない。

それでも、デジタル技術は最終的にさまざまな社会インフラの運用を自動化し、社会全体の効率化と便益の拡大を促していく。ここで「昔のほうが良かった」と言ってデジタル化に背を向けては、元の木阿弥なのである。

クロサカ タツヤ
企 代表取締役、慶應義塾大学大学院 特任准教授
1975年生まれ。慶應義塾大学大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルタントを務める。2008年に株式会社企(くわだて)を設立。2016年5月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務。
(写真=時事通信フォト)
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