「しょせん、金」ではない価値観が増えてきた

2008年のリーマンショックの直後、ある親しい金融関係者と雑談をしていて、私は「今回の危機で世界、特に若い人の価値観が変わるだろう。稼ぎの額じゃなくて、社会への貢献を評価の軸にする動きが広がるに違いない」と予言しました。相手はちょっと首をかしげて「高井さん、それは甘いんじゃない? しょせん、世の中、金よ?」と諭してくれました。

実際、危機から10年経ってみると、「しょせん、金」の価値観は根強い。これは否定できない。ただ一方で、「お金とは違う価値や、社会の変化への働きかけ」を求めて、社会起業家などを目指す若者が増えているのも事実です。

お金には、人を金銭崇拝に引き寄せる魔力があります。とかくお金が物差しになりやすい現代では、「稼ぐ額=自分の価値」と勘違いしてしまうという落とし穴もあります。

それでも、リーマンショックの前よりは、今の方が「世の中、お金だけじゃない」という、当たり前の考えが説得力を持ち、若い人たちの行動に影響を与えているのは、心強いことです。

自分の娘たちも含めて、これからの経済の新しい担い手たちには「ぬすむ」人のダークサイドに堕ちず、「かせぐ」人を目指して、フェアで風通しの良い社会を作ってほしい。ヴェルサイユ宮殿で結婚式を挙げなくたって、人生には豊かで美しい瞬間がいくつも訪れます。ゴーン氏のはまったグリードは、反面教師として格好の事例ではなかろうか、と思うのです。

高井浩章(たかい・ひろあき)
新聞記者
1972年、愛知県生まれ。経済記者・デスクとして20年超の経験をもつ。専門分野は、株式、債券などのマーケットや資産運用ビジネス、国際ニュースなど。三姉妹の父親で、初めての単著となる本書は、娘に向けて7年にわたり家庭内で連載していた小説を改稿したもの。趣味はレゴブロックとスリークッション(ビリヤードの一種)。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
"地方公務員年収推計"都道府県ランキング
「独裁者」ゴーン退任こそ、日産飛躍のベストシナリオだった
なぜ年収600万円超えると"貧乏"になるか
富裕層は「スマホ」と「コーヒー」に目もくれない
海外移住した超富裕層が不幸にあえぐワケ