私は2018年春に『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』という本を出しました。中学校の課外クラブを舞台に男女2人の生徒が元投資銀行マンの謎の講師「カイシュウさん」から経済講義を受ける、というちょっと変わった経済青春小説です。講義は、「かせぐ」「もらう」「ぬすむ」「ふやす」「かりる」の5つにプラス1つ(ネタバレなので内緒)を、「お金を手に入れる6つ方法」と分類して、経済のカラクリを解き明かす形をとっています。

社会にマイナスをもたらす輩は「ぬすむ」

作中で「かせぐ」は、ざっくり「人並み以上に経済発展に貢献する」と定義しています。「もらう」には、「そこそこ経済にプラスの貢献をする人たち」と「生活保護受給者や障害者など社会保障のサポートを受けている人」などが含まれます。そして、この「かせぐ」と「もらう」は単なる経済的な貢献度の違いでしかなく、どちらが偉いわけでもない。両者は「フツーの人々」、平等な市民として社会を作っているという見方を示しました。

『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密(しごとのわ)』(高井 浩章著・インプレス刊)

では、「ぬすむ」は何か。無論、泥棒や詐欺はここに入るわけですが、本で例に挙げたのは、リーマンショックの前、異常な高給を取りながら半ば意識的に金融危機のタネをばらまいた銀行家たちなどです。短期的には大儲けするかもしれないが、長い目でみれば社会にマイナスをもたらす輩も、犯罪者同様、「ぬすむ」に入れるべきだという考えです。従業員や社会に還元すべき原資を自らの報酬としてかすめ取る経営者もここに入るでしょう。

「おカネの教室」の講義では、この「かせぐ」「もらう」「ぬすむ」という分類を軸に、消防士から昆虫学者、銀行家、サラリーマン、パチンコ屋、地主などなどのさまざまな職業について考えを深めていきます。そこにヒロインの家庭を巡る、あるドラマが絡んで物語が展開していくのですが、それは読んでのお楽しみ。

この本はもともと、家庭内で娘たちだけを相手に連載していた読み物でした。こうした職業観、労働観を書いたのは、我が家の三姉妹に働くことの意義や社会との関係について考える「軸」をもってほしいと思ったからです。この労働観と、金銭や市場経済に関する基本的なリテラシーが、「おカネの教室」の講義の柱です。家庭内連載が紆余曲折を経て商業出版された経緯は、Kindle本「『おカネの教室』ができるまで」などに詳しく書いたので、そちらをご覧ください。