給料が上がらない一方で、税金や年金の負担は年々重く
景気が回復して金利が上がっても同じことが起きる。つまり、政府が掲げる景気回復やデフレ脱却を本当に達成した場合、そうしたことが起こりうる危険な状況に日本経済は置かれているのだ。
総裁選では経済政策も大きな争点になったが、日本経済が抱えている現状のリスクについては両者ともまったく触れていなかった。
給料が上がらない一方で、税金や年金の負担は年々重くなっている。このために国民のマインドは将来不安からシュリンクして「低欲望」になる。景気が低迷しているのに、10年前は約1400兆円だった日本人の個人金融資産は今や1800兆円を超えている。蓄えが増えているのは将来不安の何よりの証だ。だから「医療・年金などの社会保障に力を入れてほしい」という政府への要望も強くなる。
少子高齢化なのだから、現行の年金制度がもつわけがない
医療保険について言えば、日本の皆保険制度は世界一だ。イギリスにもNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)という国営医療制度があって、ほとんどの治療を誰でも無償で受けられる。しかし財政難と人手不足で崩壊しかけていた医療現場をブレグジット(EU離脱)が直撃したために、医師不足、医療従事者不足が一気に進んで完全にクライシスに陥っている。診療に何カ月も待たされて、緊急搬送された患者さえ治療を受けられない状況なのだ。
日本の医療制度がまだ機能しているのはそれだけ金をかけているから。しかし、当然、国家財政の重荷になっている。2025年には団塊世代が全員75歳以上の超高齢社会に突入する。医療費や介護費用は膨れ上がるし、現場の人手不足はいよいよ深刻なことになるだろう。イギリスのような医療崩壊を回避するためには、医療制度改革も待ったなしの論点といえる。
現行の年金制度もほとんど限界に達している。年金制度がスタートした1960年代当時は1人の高齢者を11人の現役世代(20~64歳)が支えていたが、今や1人の高齢者を2人の労働者が支えている状態だ。今後ますます年金受給者が増えて、労働人口が減っていくのだから、現行の年金制度がもつわけがない。
少子高齢化で原資が増えない以上、国の年金債務はどんどん膨れ上がっていく仕掛けになっている。現行の年金制度を維持するなら、支給額の減額や受給年齢の引き上げなどで財源の範囲内でやりくりするしかない。総裁選では安倍首相が年金の受給開始年齢について70歳を超える選択もできるように制度改革して、「3年で断行したい」と公言していたが、その程度の改革では焼け石に水だ。