憲法9条をいじれば財政負担が増す可能性が高い

今回の総裁選では安倍首相は自らが政権を担ってきた5年8カ月を総括すべきだった。都合のいい指標や成果をアピールするだけではなく、自分が口にした公約のどの部分が実現したのか、どの部分が実現していないのか、しっかり総括する。あるいはマスコミもそれを検証して国民にわかりやすく提示するべきなのだ。

大前研一著『日本の論点2019~20』(プレジデント社)

自分の仕事をきちんと総括したうえで、「これとこれがまだ目標未達だから、あと3年でこれをやりたい」という説明をしていれば、消化試合のような総裁選でも論点が整理されて、国民にもわかりやすい議論になったのではないかと思う。

安倍首相が論戦の主題にしたのはやはり憲法改正だった。憲法改正も日本にとって重要な論点ではあるが、今の日本が抱えている最大の問題は破綻してギリシャ化しかねない国家財政である。

憲法に健全財政を義務付ける条項を加えるというならば、憲法改正を主題にする意義もある。日本国憲法では健全財政は明文化されていないが、ドイツやスイスの憲法には国に均衡財政を義務付ける条項がある。ニュージーランドの憲法には財政目標を2年連続で達成できずに放置した中央銀行総裁はクビにするという規定まである。

しかし安倍首相がやろうとしている憲法改正はそういうものではない。むしろ逆で、憲法9条をいじれば財政負担が増す可能性が高いのだ。

日本人が自らの手でゼロから自主憲法を創り上げるべき

憲法論議については、もっとゆっくり時間をかけてやればいいと思う。これは筋論で言っているわけではない。

私は現行憲法を改正するのではなく、ゼロベースで自主憲法を創り上げるべきだという「創憲派」である。単に現行憲法の条文を訂正して書き換えたような自民党の憲法改正案や、現行憲法に環境権などの項目を付け足した公明党の「加憲」では、現行憲法が抱えている根本的な欠陥は解消されない。したがって、日本人が自らの手でゼロから自主憲法を創り上げるべきだ。というのが、私が言う「創憲」だ。

私自身30年以上前に憲法草案を書いてみたが、憲法の体系を決めて、チャプターごとに過不足なく条文を編み込んでいく作業というのは生半可なことではできない。本気で自主憲法を創るとなったら、国会で議論を重ねて、ときには国民投票にかけながら、一つひとつ条文を決めていかなければならない。この作業は最低でも10年はかかるだろう。