国民の景気実感と政府の発表は、なぜズレるのか

そもそも国民が憲法改正を火急の論点としてとらえているかといえば、決してそうではない。内閣府が定期的に行っている「国民生活に関する世論調査」の直近の調査で、「今後、日本政府はどのようなことに力を入れるべきだと思うか」という質問に対する回答(複数回答)の最上位は「医療・年金等の社会保障の整備」(64.6%)。以下、「高齢社会対策」(52.4%)、「景気対策」(50.6%)がベストスリー。「憲法改正」という回答はまったく上位に入ってこない。

NHKやマスコミ各社の世論調査でも傾向は同じだ。国民の意識の中では憲法改正という論点の優先順位は依然として高くない。「政治に望むものは何か」という世論調査で必ず上位に上がってくるのが「社会保障」と「景気対策」である。

「5年前より今のほうが悪いという人はよほど運がなかったか、経営能力に難があるか、何かですよ。ほとんどの(経済統計の)数字は上がってますから」という麻生太郎財務大臣の発言が物議を醸した。確かに株価を見れば5年前より上がっているが、景気回復を実感している国民は少ない。だから、相変わらず政府に「景気対策」を望む声が高いのだ。

国民の景気に対する感覚と、「(18年12月で)戦後最長の景気回復の予想」という主催者発表のズレはかなりシリアスな問題である。なぜこのようなズレが生じるのか。大きな理由の一つは給料の手取りが増えていないからだ。

この20年で欧米の給料は平均で2倍になっている

この20年で欧米の給料は平均で2倍になっているのに、唯一、日本の給料だけはほぼフラットだ。G7の主要7カ国で比較しても、日本だけが2000年の賃金水準を下回っている。

給料がまったく上がらないのだから、景気を実感できるわけがない。暴動が起きてもおかしくないくらいだが、日本人は騒がない。理由はデフレだ。モノが安くなっているから何とか生活できる。路頭に迷う人も少ない。

にもかかわらず、政府は「デフレ脱却」と言い続けている。デフレを直したら二つの爆発が起きる。一つは国民生活で、給料を上げない限り生活は苦しくなる。

もう一つは日銀が異次元の金融緩和で市場から買い入れてフォアグラ状態になっている日本国債である。日銀が物価上昇率2%の目標を達成した場合、当然、金利も上がる。そうなると利払いが利息を上回る「逆ザヤ」が生じて、日銀が腹一杯に溜め込んだ国債が一気に内部爆発を起こし、国債暴落のトリガーを引く。