自分のことを話題にすることはほとんどない

また、小嶋の要求は特にビジネスにおいては下にはやさしいが上に厳しい。たとえ違う会社の役員であっても、業界や日本の将来を考え、ずけずけとものを言う。説教をする。

小嶋の経営に対する姿勢はまず「無私」であるから、いわば怖いものなしである。といって粗野・横暴・横柄ではもちろんない。

自宅を訪れる訪問客であっても「手土産」を一切受け取らない。それどころか帰りには、その辺にある本などを渡して、「これ、読んどき。ためになるから」とかえってお土産をわたすほどだ。

自分のことを話題にすることはほとんどなく、だから自己の売り込みや過去の功績をひけらかしたりもしない。ただひたすら、向上を求め、実践する。

102歳となった現在でも、新聞5紙と「エコノミスト」をたんたんと読んでいる。

家訓「上げに儲けるな、下げに儲けよ」

自己宣伝をしないというのは、弟の岡田卓也(現イオン株式会社名誉会長)も同様だ。ふたりとも基本的スタンスとして、本業・実務に徹するという考え方がある。

小嶋が監査役時代にこんなことがあった。人事本部の私のデスクの前にきて「あのA君はどうしてる?」と聞くので、「財務本部の資金部にいます」と答えたところ、ここへ呼んでほしいという。

A君が来て小嶋が「いま何の仕事してんのや?」と聞くと、A君は得意げに「会社の資金に余裕があるので、その資金をつかって株などに運用しています。これまでに相当儲けることができました」と答えた。

すると小嶋は「あほか君は。誰の指示でそんな卑しい仕事をしているのや。本業で儲けんかい。私は君をそんなことのために育てたんと違う。今すぐ辞めさせる」と言って財務本部に血相を変えてとんでいった。そしてその部署はすぐ廃止となった。

小嶋と岡田はバブル時代、他社がゴルフ場経営だとか金融事業だと浮かれる中、全く他の分野には手を出さなかった。これは岡田家に伝わる家訓「上げに儲けるな、下げに儲けよ」という商人としての実践であったと岡田卓也は『岡田卓也の十章』で述べている。まさに、浮利を追わない堅実な経営姿勢をDNAとして持っているのだ。