※本稿は、桑原晃弥『トヨタ式5W1H思考』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「がんばれ」しかいわないマネージャーは失格
トヨタには、「『がんばれ』しかいえないのでは、管理者ではなく応援団だ」という言葉があります。「あと一歩」の力を振り絞るところで、みんなの「がんばれ」は大きな力になるので、決して応援団が無意味ということではありませんが、問題はそれが組織の管理者の場合です。
トヨタの管理者に求められるのは、部下を「がんばらせる」ことではなく、「がんばらなくても成果が出る方法」を考えることです。
たとえば、生産現場の管理職に求められるのは、作業をしている人たちの仕事ぶりをよく観察して、「なぜあのやり方をしているのだろう?」と問いかけ、「もっと楽にできる方法はないか?」と考えることです。現場で何の気づきもなく、何の改善もせず、何の指導もせず、「がんばれ」「もっとがんばれ」では管理職失格だというわけです。
同様に、部下に向かって「もっと知恵を出せ」「イノベーションを起こせ」とかけ声をかけるだけなら、これもやはり管理職失格です。部下やチームから知恵が出ないのなら「なぜ知恵が出ないのか?」を問い、「なぜイノベーションが起きないのか?」を問うことが求められます。
知恵が出ないのには理由があり、知恵を出すためには工夫が求められます。
知恵を出させるための驚きの策
吉田健氏は、9代目カローラの主査を務めたのち、鈴木一郎氏の下でレクサスの開発にも携わった人です。その吉田氏がタイを舞台に、アジア戦略車「ソルーナ」を手がけた時のことです。
ソルーナは当時、発展途上だったタイで売る車ですから、カローラよりもはるかに安くつくり、売ることが必要でした。ところが、当時のトヨタパーソンにとって「カローラは一番安いクラスとして完成された車」という強い思い込みがあり、それより安い車をつくるために「アイデアを出せ」と吉田氏がいっても、「そんなものは無理」というのがほとんどの人の反応だったのです。