選手の能力を最大限に引き出す
――どのようにして、個人のパフォーマンスを引き出したのでしょうか?
シンプルにコミュニケーションの量を増やした。自分が思い描く代表のチーム像を選手に伝え、選手からも主張を聞く。スタッフと選手を集めた全体ミーティングでも、一対一でもよく話をするようにしていた。
全体ミーティングは午前・午後の練習後など1日に数回行い、「おまえはどう思う?」と場面ごとにすべての選手に発言をさせた。誰かが意見を言うと、ほかの選手からも「俺はこうしたい」「こういう場合、俺ならこうする」と声が挙がる。
発言をさせることで、チーム皆が各選手が何を考えているのかわかるし、発言したことで主張した選手にもプレーへの責任が生まれる。チームの風通しをよくして、お互いの主張も聞き入れ、要求もしていくという雰囲気をつくるようにしていった。
ただし、その場では結論を出さなかった。ミーティングでは戦術ボードを使って、選手に見立てた磁石を動かして意見を言うが、各自の主張はいつもボードの上ではすべてが成り立ってしまう。だからこそ、方向性の決断はミーティングではなく、ピッチの上で出すようにしていた。
実際に出てきたやり方で動いてみて、「これは試合の中でうまくいく」「これはうまくいかない」と。机上ではなく、実際に体を動かしてプレーの選択肢を広げていった。
チームを救った日本人の強み
――チームをつくる中で、日本代表、選手のよさというのはどういった部分だったでしょうか?
日本人選手の最大の強みはディシプリン(規律)があること。全体でやろうとしていることに協調しながら戦うことができる。試合が始まれば、プレーの選択をチームメートに相談することもできないし、ベンチに聞きにいくこともできない。そのときに、全体の意思に沿った対応をすることができる。だからこそ、共通した意識を皆が持つことを大切にしていた。
チームをつくる際インターナショナルで成功している監督は、これまでの成功体験で培った答えを選手に求める。「この場面はこのプレーをしろ」「いまはこういう試合にしなくてはいけない」と。そして、その自分の考えや型にはまる選手をチョイスする。
ただ、そうすると、選手たちの間のコミュニケーションは深まらないし、自分で考えることもなくなってしまう。選手たちに選択肢の幅を残したかった。だからこそ、選手、スタッフも含めて全員でまとめていくというスタイルを取った。