サブメンバーに与えた大事な役割

――今回の大会では、交代で入ったメンバーが活躍するシーンも目立ちました。試合に出られないベテラン選手など選手のモチベーションはどのようにして維持したのでしょうか?

W杯のような長丁場の大会では、11人のレギュラーメンバーではない選手がチームに変化を生み出すことが多い。結果を変えるのはバックアップメンバーたちだ。どんな強豪国でもスタートの選手をサポートするのはもちろん、それ以上にベンチに座っている選手たちをいかに3~4週間、メンタルコンディションを維持させるかが大切になる。本戦を想定し、当然私もそこが勝負どころのひとつであると考えていた。

まず大切なのは、メンバーを選んだ段階で、個々の選手にチームでの立ち位置、求めている役割についてはっきりと伝えること。そのうえで彼らのケアをしていく。

チームとしてルーティン化する

レギュラー選手はトレーニング、試合、振り返り、次の試合の準備……と行動がルーティン化するので、心身ともに調整を進められる。しかし、バックアップの選手はレギュラー選手ほど試合に出ないためそれができない。特に、メンタル面のコンディションに関しては、選手1人でつくることは難しい。しかも、トップ選手が集まるからこそ、心理的なケアは何よりも時間をかけて対応していかなければならない。当然、全体での話ではどうしてもレギュラーメンバーへのアプローチが増える。

そこで、ロシアではコーチ陣だけでなく、メディカルスタッフ、サポートスタッフ、その他のスタッフ全員が協力してサブメンバーのケアに当たった。試合形式のトレーニングを用意して、そのあとで振り返り、休養、再トレーニングという形で、レギュラーメンバーと同じルーティンを準備するようにした。

たとえば本田(圭佑)は、与えられた短い時間でパフォーマンスを爆発させようとしていた。「1ゲーム20分か25分が自分に与えられる」と事前に理解して、そこに向けて気持ちを高めていた。その意識、感覚の中で今回の大会に入っていた。それで、あの活躍を見せてくれた。

信念を曲げてでも勝とうとした瞬間

――メンバー交代でいうとグループリーグ最終戦のポーランドとの試合で、後半38分に長谷部誠主将をピッチに送り出し、“徹底守備”をするという決断をされました。あのときの決断はどのように決められたのでしょうか?

実はいまもあの決断に対して、自問自答することがある。それくらい大きな決断だった。これまでの自分の指導スタイルや信条を知っている人たちは驚いたと思う。オリンピック代表でも、その後のJリーグでも私は常に攻撃的なスタイルを貫いてきた。守備的ではなく攻撃的になれと。悩んだらステイではなく、自分からアクションを起こせ。ボール、人、ゴールに対して積極的にいけと。私自身も、「これが自分の指導者としての生命線だ」と思っていた。