着床前診断の線引きはどこまでか
まず、受精卵を選別することについてはどうでしょうか。つまり、体外受精した複数の受精卵を遺伝子検査し、どの受精卵が「適切」かを選択する。着床前診断と呼ばれるものです。病気があるかどうかという基準であれば選別してもいいのでしょうか。
あるいは身体的特徴、身体能力による選別はどうか。男女の産み分けはどうか。知的能力や精神的特性による選別はどうか……そうした選別が可能になりつつあると考えたときに、どこで線引きをすべきか。あるいは、線引きは必要ないのでしょうか?
選別から一歩進んで、遺伝子に人間の手を加えて改変することについてはどうでしょう。中国がやったように、病気予防のためであれば受精卵の遺伝子を改変してもいいのでしょうか。がんにかかりにくい遺伝子構造をつくり出すことができるかもしれません。一部の部族はエイズにかからないといわれているので、彼らの遺伝子構造を導入してエイズを予防することも考えられるでしょう。
あるいは、受精卵の段階で、遺伝性疾患を発症する遺伝子を見つけ出し、それを改変・治療することはどうでしょうか。
はたまた、病気の予防や治療ではなく、精神的、あるいは身体的な能力を高めるために遺伝子を改変してもいいのでしょうか(こうした能力増強のことをエンハンスメントと呼びます)。
DNAの二重らせん構造を解明したワトソンはこういいました。
「頭が悪いのは病気だから、遺伝子を組み換えて治療しよう」
さすが天才はいうことが違います。私はこれを聞いたときぞっとしました。彼にいわせれば、IQが120あっても病気なのかもしれません(笑)。要するに、判断の境界はかなり曖昧なんです。
遺伝子改変を許容できる条件
(問題)遺伝子改変はどの場合に許容できるか?
選択肢を整理すると、次のようになります。
(1)体外受精によって、遺伝子検査をして選別する。
(2)病気予防のための遺伝子改変。
(3)病気治療のための遺伝子改変。
(4)身体的・精神的な能力増強(エンハンスメント)のための遺伝子改変。
ハーバーマスは、このあたりを明確にしませんでした。彼は、(4)のエンハンスメントについては否定しています。しかし、それ以外を否定しているかどうかは読みとれません。ハーバーマスもはっきりさせなかったことを考えてみましょう。
(ディスカッション)
【岡本】では、発表をお願いします。