知恵の掛け合わせで、危機を打開する

このようなトップダウンによる大胆な改革を実施すると、「外部から来た人からいい刺激を受けた」と、社長に聞こえがいい言葉を取り巻きが伝える。

その言葉を聞いた社長は、「難しい改革なのに、君も賛同してくれるかね」と真に受け、耳打ちしてくれた社員は応援者であると考える。どこの会社でも見られる現象である。改革には軋轢がつきもの。こと、人事となれば、恨みつらみ、ひがみが交錯するだけに、反対勢力が増大すれば、改革に黄信号がともる。

津賀社長がこのような社長であると断定しているわけではない。しかし、念のために聞いてみた。

「落下傘や出戻りが優遇されると、会社のために私生活も犠牲にして、これまで頑張ってきた俺(私)たちは、何だったんだ、とうがった見方をする人も少なくないのでは。外部人材を登用したとき、早期退職制度は実施したとはいえ、これまで終身雇用型文化が染みついている組織において、マジョリティを占める生え抜き社員のモチベーション・マネジメントをどのようにお考えですか。いや、海外はもちろん、国内でも、文明開化のごとく、過去を否定し、新しい文明を取り入れるほうにかけますか」と。

すると、津賀社長は「うがった見方」を完全に否定した。

「右肩上がりのときは、優秀な人であったとしても、外から連れてくる人事政策に対して否定的な声が出たかもしれませんが、今では、このままだと会社が縮小していくという危機感のほうが大きい。チームプレイの中で社外から来た人の知恵と中の人の知恵を掛け合わせることで、この危機的局面を何とか打開していきたい、という希望のほうが勝っていると思います」

「津賀スタイル」の事業部制

では、連続的だけでなく、非連続な変化に対応し続けるために、組織はどうあるべきか。

「津賀社長は事業部制を復活した」とマスコミでは書かれているが、事業部制は復活したのではなく変革の象徴である、と考えられる。そもそも、経営学の知見では、事業部制こそが最終的な組織デザインであり、持ち株会社も事業部制に収斂していくとされている。

パナソニックの歴代経営者を見ていると、経営史の大家・アルフレッド・チャンドラーの書名ではないが、『組織は戦略に従う』と考え、政権が交代するたびに、組織も変わっているように見える。