挑戦する人をどう応援するか
では、既存の経営資源をベースにするのではなく、まったく斬新な非連続的イノベーションの実現に対しては、どのような手を打とうとしているのだろうか。これぞ100年後を見据えた多角化を考えるうえで忘れてはならない重要な思考である。
「本当に非連続なイノベーションは、失うものがないような人たちが本来やるべきもの。われわれとしては、挑戦する人たちをどう応援するのか、どう組むのかが重要になってきます。いい例がテスラです。われわれは、テスラにはわずかの資本しか入れていません。車という領域は連続的なイノベーションかもしれませんが、テスラはEVという新分野で非連続的なイノベーションを起こそうとしています。小さなスタートアップを応援するだけでなく、テスラのようなベンチャースピリットを持った大きな企業と手を組むこともできます」
日本的経営の特徴とされてきた終身雇用や年功序列が戦後の長い間続いたのはなぜか。それは、新卒で入社したときのビジネスモデルが定年まで続く、と想定できたからである。今や、そのようなことを言えるほど呑気な時代ではない。
「35年後の会社は予見できない」と津賀社長は現実を直視し、未知なる世界に対して、立ち向かっていかなくてはならない、と考える。そのための手段として、「内部のリソースだけでやるということを正当化する理由はどこにもない」と言う。「新入社員をたくさんとって、定年まで働き続けて、その中でスキルを磨いていくという昔の人事政策および日本の大企業のビジネスモデルは崩れつつあります。そういう時代だからこそ補う手立てが必要」。
その手立てとは。
「新しい価値創出をイノベーションと呼ぶならば、社内的にイノベーションを起こしてもらう。できることは、パナソニックのリソースを使いながら、パナソニックの社内ではできなかった(できそうにない)イノベーションに関しては、社外のリソースを活用していく」方針である。
つまり、オープン・イノベーションを積極的に推進するため、津賀社長が力を入れているのが、戦略的人的資源管理(SHRM)であると考えられる。
国内外を問わず、社外のリソースを社内に持ち込むエグゼクティブ・スカウト人事を展開し、「(かつての)パナソニックらしからぬ人事」として話題を呼んだ。樋口泰行氏(前・日本マイクロソフト会長)、馬場渉氏(前・独SAPAGバイスプレジデント)、片山栄一氏(前・メリルリンチ日本証券調査部長・アナリスト)などを連れてきて注目されている。特に樋口氏は、パナソニック(当時・松下電器産業)に新卒入社し転職した人物。いわば「出戻り人事」である。