ホテルのような「おもてなし」を求めるのは間違い

それでも、衣食住の質が下がってしまうことに抵抗感を抱く高齢者はいるそうです。Wさんは「お金」の問題だといいます。

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「介護保険制度の財源は被保険者が納めてきた保険料だけでなく、税金を原資にした社会保障費が充てられています。ご存じのように介護保険サービスを利用する高齢者は激増しており、社会保障費はひっ迫している。施設も限られた予算で運営されているのです。また、人手不足で行き届いたサービスを提供するのは難しい」

そもそも介護保険制度は、高齢で自立した生活が送れない方を支援するのが目的。よって、自宅で暮らしている快適さや満足感までを得ることは難しいのです。

「もちろん多くの施設は最大限の努力をしています。そうした実情を知っているわれわれケアマネからすると、何かというと不満をいう利用者さんやその家族の言葉をつい聞き流したくなってしまうのです。心の中で、『そんなユートピアのような環境を求めるのなら、それなりのお金を出して有料老人ホームに入ってください』と言いたくなります」(Wさん)

費用を払って入居しているとはいえ、限られた条件のなかで運営している介護保険施設に一流のホテルのような「おもてなし」レベルを求めること自体が間違っているのでしょう。

介護施設の職員の質が低いことが「不満の元凶」

とはいえ、そのWさんから見ても「入居者や家族から不満の声が出るのは仕方がないな」と思う「問題あり」な施設もあるそうです。どういうところなのでしょうか。

「職員の対応に課題がある施設です。ケアする時も流れ作業で行っている感じで、心がこもっていない。逆にいえば、職員の仕事に対するモチベーションが高く、入居者の方の要求にも一生懸命に対応しようとし、いつも笑顔で受け答えしてくれるようなところは、ほとんど不満の声は出ません。人間って不思議なもので、自分に対して感じのいい対応をしてくれれば、少々食事や待遇に問題があっても大目に見ることができる。結局、不満を感じる原因は“人”なんです」(Wさん)

そうした人(職員)の対応の良しあしは施設を運営する上層部(特にトップ)に左右されるともいいます。職員のことを常に考え、働きやすい環境をつくる努力をし、研修などで仕事に対するモチベーションを高め、悩みがあれば相談に乗り、職員同士がコミュニケーションを密に取れる配慮もする。