『めちゃイケ』が終わった理由

片岡が、出演者を「洗脳」に近いくらい精神的に追い詰めていたことは業界内では有名な話だ。『めちゃイケ』の構成を務めた高須光聖と『水曜日のダウンタウン』などの演出で知られるTBSの藤井健太郎の対談でも、こんなことが語られている。

【高須】そうそう。
ストイッック(原文ママ)と言うかなんと言うかもうある種“宗教”かな。
だから演者もディレクター(飛鳥)がそこまでやるなら腹くくってやらなしゃ~ない。
【藤井】“片岡飛鳥教”の話、たくさん聞きたいですね~
やっぱり内部の人に聞くとめちゃくちゃ面白いんですよ。
いつか本とか出して欲しいです。ご本人が、ってより証言集みたいな。
【高須】やーすごいよ。
演者の追い込み方とか、モチベーションの上げさし方とかえぐいで。
だって山本(極楽とんぼ山本圭壱が10年ぶりにめちゃイケに出た時の収録)の回とか、ある意味全員をトランス状態にまで持っていくからね演出を超えて、もう洗脳やね(笑)
(『高須光聖オフィシャルホームページ 御影屋』より)

『めちゃイケ』の最終回で、レギュラーメンバーが「あなたにとってめちゃイケとは何ですか?」という質問に答えている。そこでオアシズの光浦靖子は「宗教」、加藤浩次は「組(くみ)的な感じ」と答えている。『めちゃイケ』は、スタッフと出演者が精神をすり減らして番組づくりに向き合う「宗教」的なバラエティ番組だった。だからこそ、時にはそこに犠牲をともなうことがある。その最も大きなもののひとつが、2010年に起こった岡村の休養騒動だろう。

片岡飛鳥がつくった“岡村隆史”像

当時の岡村は、通常のレギュラーに加えて映画の撮影や一人芝居の仕事が重なり、多忙をきわめていた。そのせいで精神的に追いつめられ、休養に入ることになった。ずっと歯を食いしばり、我慢して我慢してトップを走り続けてきた男が、ついに我慢の限界を超えたのだ。岡村が精神的に追いつめられたのは『めちゃイケ』のせいである、などというつもりはない。ただ、それがいくつかある原因のうちのひとつであるのは明らかだろう。片岡とナインティナインの矢部浩之の対談でも、2人の口から、こんなことが語られていた。

【片岡】『めちゃイケ』では、世間のイメージはたぶん「何でもできる岡村」みたいな。
【矢部】これは変な意味じゃなくて、完全に飛鳥さんがつくった岡村隆史なんですよ。『めちゃイケ』の「できる岡村隆史」は。
(『クイック・ジャパン』vol.113、太田出版、2014年)

『めちゃイケ』で片岡は岡村にプレッシャーをかけて、厳しい課題を与えてきた。岡村は、毎回並外れた努力によってそれを乗り越えて、笑いを生み出してきた。そうやって、片岡の期待に応えて「できる岡村隆史」を演じ続けてきた岡村は、一時的に仕事が急増したことで、そんな自分のイメージを支えきれなくなり、体調を崩してしまった。