この東ロボくんは、偏差値57.1と、国公立大学も狙えるところまで成績を上げたものの、東大合格は不可能と判断され、開発は凍結、2016年11月に東京大学合格を断念することになった。

なぜ東ロボくんは東大に合格できなかったのか。これについても、ひと言で言えば身体性が獲得できなかったからだと私は見ている。いくら過去問ばかり勉強しても、学校に行った経験がない、友達や先生と外で体を動かして遊んだ実体験がないからだ。

身体も失敗の経験もないロボには限界がある

たとえば、こんな読解問題はどうだろうか。

「『Kくんはまた宿題を忘れた。おまけに試験にも遅刻した。』
この文章に自然に続く文章は次のどれでしょう?
1『私は遅刻した。』
2『試験には宿題の問題も出る。』
3『Kくんはきっと先生にしかられるだろう。』」

簡単だろうか? 正解は3番で、人間なら正解を導くのはむずかしいことではない。でも、東ロボくんはこのような簡単な読解問題が苦手なのだ。頭でっかちで過去問の世界しか知らない東ロボくんは、人間社会の暗黙のルールがわかっていない。つまり、常識に欠けている。なぜなら、東ロボくんには身体がないので、自分で学校に行って、失敗した経験がないからだ。

実は、社会におけるさまざまな経験は、身体あってのことなのだ。遊びや実体験を通じて獲得した身体性が、問題発見力、問題解決力を養うのである。

だから、身体性はプログラミングを学ぶうえでも重要だ。私の学校のプログラミング授業では、体を動かすトレーニングも積極的に取り入れている。

「前に歩こう!」といったら子どもたちは前に歩く。「ジャンプしよう!」といえば子どもたちがジャンプする。このように、まずは体で覚えさせてから、はじめてタブレットを使ってプログラミングのゲームをおこなうのだ。

そのゲームにしても、まずは子どもたち自身がキャラクターになって動くことを体で覚えることで、空間認識能力を身につけていく。こうした授業が、身体性を獲得し、学びの成果を最大化する重要なポイントなのだ。

身体性は、人間にしかできないことを創造する力の源泉になる。コンピュータやプログラミングに親しませると同時に、子どもにどんどん遊ばせる。その遊ばせた分だけ、子どもの可能性の伸びしろをさらに大きく伸ばすのだ。

竹内薫(たけうち・かおる)
サイエンスライター。1960年生まれ。東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学専攻)、東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了(素粒子物理学、宇宙論専攻)。理学博士。2016年春に小学校レベルのフリースクール「YESインターナショナルスクール」を設立し、校長に就任。日本語と英語、プログラミングを学ぶ「トライリンガル教育」を実践。『99.9%は仮説』(光文社新書)、『ペンローズのねじれた四次元』(講談社ブルーバックス)など著作多数。テレビ、ラジオ、講演など執筆以外にも多方面で精力的な活動を続けている。
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