これは、裏を返せば、「アマゾンではお客様の満足度向上に帰結しない仕事や作業スピードアップは決して行わない」ということも意味しています。

「上司が締め切り前に提出すると喜ぶタイプだから、早めに企画書を出さなきゃ」
「未完成でもいいから、先を越される前にリリースして、ライバル企業の出鼻をくじけ」
「会社の通達だから、とにかく残業しないように仕事を終わらせよう」

といったような、対象を取り違えたスピードアップ、本来の目的を見失ったスピードアップは、アマゾンでは絶対に求められることはないのです。

日本独自の「代引き決済」超速導入記

アマゾンでは、全ての部署でPDCA(Plan→Do→Check→Act)サイクルをいかに素早く回すかを重要視しています。PDCAのP(プランニング)は、たしかに大事ですが、アマゾンは「まずは小さくやってみて、その結果を見てみたい」というのが基本的な考え方です。つまり、D(ドゥ)へ素早く移行するのがポイントです。

『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』(佐藤将之著・KADOKAWA刊)

私はアマゾンへ入社してすぐの2000年に、「各国のアマゾンに先駆けて、日本で代引き払い機能を導入する」というプロジェクトのリーダーを担当することになりました。アマゾンで買い物をする人のなかに、クレジット決済に抵抗感を持つ人がいたためです。アメリカの本社側にそういったメンタリティーの説明を行い、「ユーザーを増やしたいなら、代引き(Cash On Delivery=COD)を持たなければならない」と主張したのです。

投資に対する効果を説明して、結果、すぐにプロジェクトのGOをもらいました。そしてここから一気に実現まで突き進みます。

まず、全世界のアマゾンのシステムを一元管理しているシアトルに「どのようなシステムを追加するのか」を詳細に説明する必要があります。その後、流通業者さんと「お金の回収方法・期限」のルールを決めます。「注文相手が3日間不在だったら?」「荷物を2個届けて1個は受取拒否になったら?」など、ありとあらゆるケースを想定しておく必要があるわけです。

また、流通業者さんとのお金の流れについては、実際に私が購入者となりテストをしました。例えば、流通業者さんから自宅に2個の荷物を届けてもらい、「1個はいりません」と答えたときに、未回収となる1個分の代金はルールどおりに両者の間でやりとりされるのか……ということを検証したのです。

検証し、不具合があれば修正する。そして次の検証を行い、不具合があれば修正する。このように小さなPDCAを高速で回し続けることで、プロジェクトは完成形に近づくのです。