民間療法に陶酔したS・ジョブズは標準治療に戻った
先進医療で代表的なものが「粒子線治療」です。よく「切らずに治す」との謳い文句で注目を浴びていますが、万能治療でも魔法の杖でもありません。現在の進歩した放射線治療を凌駕するエビデンス、つまりより優れていることを証明した根拠はありません。しかし、患者さんは「300万円も払うのだから見返りは必ずあるはず」と思いがちです。要するに、何のがんで、どのような状況に対して粒子線治療を選ぶべきか冷静に考える必要があります。
免疫療法は要注意です。それを語ってよいのは、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬のみで、抗がん剤の一種として扱われます。しかし、多くのクリニックで行われている免疫療法は、本当に治療として成り立つのかさえ不明なモノばかりです。にもかかわらず、不当な広告をネット上で展開し、「あきらめない」「治る」という甘言を囁きながら、藁にもすがりたい患者さんを誘導する高額ビジネスが絶えません。
膵悪性腫瘍で亡くなったスティーブ・ジョブズ氏も最初はさまざまな民間療法に陶酔しましたが、最後には標準治療に戻ったといいます。いくらお金を積んでも治らないものが治るハイグレードな治療はこの世には存在しないことを意味します。
身近な「がん」は、人生や命に関わる重要なテーマです。お金を払えば解決できる病気でもありません。だからこそ、普段からリテラシーを育み、賢い患者になることが必要です。
完治するがんもあり、正しい医療情報吟味力を磨く
大場 大(おおば・まさる)
東京オンコロジークリニック代表
医学博士。外科医、腫瘍内科医。金沢大学医学部卒業後、東京大学附属病院などを経て現職。著書は『大場先生、がん治療の本当の話を教えてください』など。
東京オンコロジークリニック代表
医学博士。外科医、腫瘍内科医。金沢大学医学部卒業後、東京大学附属病院などを経て現職。著書は『大場先生、がん治療の本当の話を教えてください』など。
(構成=岡村繁雄 写真=iStock.com)