トランプ政策が抱える3つの矛盾
(その1)景気刺激:アクセルを踏む政権とブレーキを踏むFRB
トランプ政策が抱える1つ目の矛盾は、財政政策と金融政策の方向性の違いである。17年12月に大型減税が実現して以降、トランプ政権の財政拡張路線が鮮明になっている。トランプ大統領は、財政拡大による景気浮揚効果などで3%成長が続くことに自信を示している。
過去の拡張的な財政政策の大半は、労働市場が完全雇用ではない景気後退局面か、景気回復の初期に実施された。これに対し、今回の財政拡大は、景気回復が十分に進み、労働市場がほぼ完全雇用状態とみられるなかで実施されるという点で極めて異例である。
通常、景気後退期には税収減と景気刺激策などにより財政収支が悪化する一方、景気拡大期には税収増と歳出削減策などにより財政収支が改善する傾向にある。ところが、トランプ政権は景気拡大期にもかかわらず大型減税や歳出拡大を実施しているため、財政収支は改善するどころか、悪化することが見込まれる。
トランプ政権とは対照的に、FRBは、現局面で財政政策による景気刺激は必要ないとのスタンスである。労働市場がほぼ完全雇用状態に達したとみるFRBにとって、景気上振れは労働市場の過熱によるインフレ加速リスクを高めるものにほかならない。今後、財政拡大がもたらす景気刺激効果の一部は、そうしたFRBの利上げによって減殺される公算が大きい。
(その2)貿易赤字:削減を目指す通商政策と膨張させる財政拡大
2つ目の矛盾は、財政拡大と貿易赤字削減の両立の難しさである。トランプ政権は、輸入関税の引き上げなどにより、巨額の貿易赤字を削減できると考えている。
もっとも、経済学的にみると、そもそも米国の貿易収支を含む経常収支が赤字となっているのは、自国の供給力だけでは旺盛な内需を賄うことができず、海外からの輸入に頼らざるを得ないためである。こうした状況下、トランプ政権による財政拡大は国内の消費や投資を増加させるが、それを賄うためには、海外からの輸入に一段と頼る必要が出てくる。このため、トランプ政権が輸入関税の引き上げを行っても、内需刺激策を採っている限り、貿易・経常赤字の削減は困難であるというのが、経済学的なアプローチから導かれる結論である。
実際、トランプ政策の影響を加味した議会予算局(CBO)の予測では、「双子の赤字(財政赤字・経常赤字)」は縮小するどころか、拡大する見通しとなっている(図表2)。こうした状況が現実のものとなれば、貿易赤字削減を公約したトランプ政権は自縄自縛のなかでいら立ちを強める恐れがある。