サントリーへの不当攻撃――日本海呼称問題
日本を代表する飲料メーカー、サントリーへネット右翼が異様な攻撃を開始したのは、現在からさかのぼること約7年前、2011年8月のことであった。2011年8月は「3.11」から半年を経過しておらず、政権与党は民主党(当時)で、菅直人政権の末期である(同年9月に野田内閣に交代)。
ネット右翼界隈に習熟していない読者からすれば何のことか分からないかもしれないが、この時期、ネット右翼界隈は降ってわいたバブルの様相を呈していた。まさにネット右翼にとって黄金時代であった。なぜか。まずネット右翼の忌み嫌う民主党政権が政権与党であり格好の攻撃対象であったことと、下野した自民党への政権復活待望熱が、まるでマグマのように渦巻いていたことである。
それ(民主党)にひも付けて、この時期は、後に立法されるいわゆる「ヘイトスピーチ対策法」よりはるか前の時代で、インターネット空間には中国と韓国、特に韓国と韓国人と在日コリアンへの呪詛(じゅそ)と差別的書き込みが野放図に乱舞していた。菅直人総理大臣は在日コリアン(もしくは帰化した人物)であると堂々と名指しされ、ネット上での蔑称は「カンチョクト」という、よく分からないハングル発音(?)で呼称され、いたずらな憎悪の対象となっていたのである。
そしてそのような書き込みは誰も抑制する事ができなかった。多くの人々や既存メディアは、ネット上のヘイトを黙殺ないし嘲笑することで抑制しようとしたが、これはかえって火に油を注ぐことになり、まったく効果が無かった。
「東海(日本海)」表記がネトウヨの逆鱗に触れた
そしてまた、いよいよ彼らの差別言動を抑制しようという広範な連帯や連携ができるのはずっと後年のことであり、実際、のちに続々と公に提起されることとなった「ネット上の民族差別」を巡る民事訴訟へと発展する段階にはまったくほど遠い段階であった。つまりかいつまんで言えば、2011年とはネット右翼にとって「やりたい放題の時代」であった。
サントリーがネット右翼による格好の標的となった切っ掛けは、まったくくだらない内容であった。それは同社が発売した韓国焼酎「鏡月」のウェブ上の広告に、
“『鏡月』というその名前は韓国/東海(日本海)に隣接した湖『鏡浦湖』(キョンポホ)のほとりにある古い楼閣「鏡浦台」(キョンポデ)で、恋人と酒を酌み交わしながら、そこから見える5つの月を愛(め)でた詩に由来しています”
という文言が躍ったからである。……いったいこれのどこが問題なのか、一瞬迷う方も居られよう。それはすなわち広告文句の冒頭部分“韓国/東海(日本海)”という部分が、ネット右翼の逆鱗(げきりん)に触れたためである。