韓国政府や民間団体は、民族的アイデンティティから日本海呼称問題にこだわり、日本海を「東海」と呼称するよう国際的に働きかけている側面はあるが、世界中の国家が発行している地図には日本海(Sea Of Japan)と表記されているのが普通である。
そして根本的に言ってしまえば、この海を民間企業が何と呼ぼうが勝手なのである。この海を日本海と呼ぼうが東海と呼ぶが、この巨大な内海の存在にはまるで影響しない。
ただの「広告上の表現」にかみつく人たち
サントリーの言うように、韓国焼酎『鏡月』の歴史的経緯を踏まえれば、東海(日本海)の広告文句が、特別意味を持つものであると判断する方がおかしい。
“商品を紹介するための広告上の表現”以上でもそれ以下でもない。まったく常識的判断であろう。だって韓国由来の商品を紹介しているのだから、商品紹介に現地呼称を使わない方が不自然になる。
例えば日本の民間企業が、ロシア由来の商品を紹介する際に、「カリーニングラード」という表記ではなくわざわざ「ケーニヒスベルク」というドイツ側の旧呼称を使う方が不自然であろう。が、これを一切許容しなかったのが当時のネット右翼である。とにかく、ネット右翼は、韓国、韓国人、在日コリアンに関するいささかの擁護的、許容的と思われるごく小さな一文に対しても激甚なアレルギー反応を起こすのである。
しかし不思議である。というか奇観である。彼らは大韓航空に搭乗したことが無いのだろうか? 大韓航空の機内モニターでは、日本海は必ず「East Sea」と表記されて「Sea Of Japan」という併記すら無い。こっちには抗議や糾弾の電凸攻撃は無いのである。大韓航空は仁川国際空港をハブとして日本の主要都市に就航し、アメリカのデルタ航空と業務提携をしているが、「搭乗拒否運動」など聴いたためしがない。サントリーは日本企業だから怒ったというかもしれないが、そもそもその怒りが的はずれなのは述べてきたとおりである。
いち民間企業の広告の“韓国/東海(日本海)”たった10文字で、日本海の地位の何かが変わるのだとすれば異常な認識だし、また竹島の韓国不法占拠状態の現状が覆ることもないのである。
日本経済への「内側からの攻撃」
ちなみに筆者は2012年に竹島上陸(竹島視察)を敢行したが、それはともかくとして、ゼロ年代以降、ネットの魑魅魍魎(ちみもうりょう)のかけ声に、不本意であっても民間企業が屈服せざるを得ない状況が現出せしめたという、「日本経済活動への内側からの攻撃」がいよいよその稚拙ながらも陰湿や野蛮な牙をむき出しにした代表的事例のひとつが、このサントリー事件なのであった。