古くから環太平洋文化圏を形成していた極東の巨大な内海――日本海――は、韓国では「東海」と呼ばれていることは読者もご存じであろう。ネット右翼の言い分は次の通り。「日本企業であるサントリーが、日本海を括弧内とし、韓国表記である“東海”を正として表記しているのはけしからん反日企業の所業である」「サントリーは韓国側の東海呼称を正として用いるということは、韓国による竹島不法占拠も容認するというけしからん反日姿勢なのである」というものだ。

「サントリーは反日企業」「担当者は在日に違いない」

ネット右翼は、この一点のみをもってサントリーを「反日企業」「在日企業」「担当者は在日(コリアン)に違いない」と根拠無く誹謗(ひぼう)し、実際に同社には電話・メール・FAX等々での抗議が殺到する珍事態となった。ネット右翼はこぞって「サントリー製品の不買運動」を呼びかける運動に発展した。

いわゆる「サントリー日本海呼称事件(2011年)」の勃発(ぼっぱつ)である。ネット右翼がネットを端緒として扇動したこの事件は、同年8月19日、同社がウェブサイトで以下のような謝罪文省と広告文句の修正を行ったことで一応の収束をみた。

“韓国焼酎「鏡月」のブランドサイトにおきまして、製品のネーミング由来を紹介する文章中にございました地名表記につきましては、あくまで、商品を紹介するための広告上の表現で、地名に関する見解を表明するものではありませんでした。お客様にご不快な思いをおかけしましたことに対して、深くお詫びいたします。”

が、ネット右翼によるサントリーへの憎悪は、まるでいったん鎮火したが下草のくすぶりとなって残り続ける。それは2017年における女優水原希子さんを起用したサントリーCMへの誹謗中傷事件(別項にて解説予定)への、まるで前哨戦のように、彼らの憎悪が伏兵となって存在し続けることになったのである。

その後公開された謝罪文(サントリー公式サイトより)

日本海と呼ぶのが慣例だけれど

先に述べたとおり、日本海は古代から環日本海文化圏を形成する極東アジアの巨大な内海であった。そこには、樺太、蝦夷(北海道)、沿海州、朝鮮半島、そして本州や九州が、まるでひとつの共同浴場を囲むように存在している。

国境線や国民国家という概念が無かった古代や中世、樺太アイヌや渤海からすれば日本海は「南海」だったかもしれない。朝鮮半島からすればその海は版図の東側にあるのだから「東海」と呼ぶのは当然である。

ただし、国際通念上の常識として、この巨大な内海に面する海岸線が圧倒的に長いのは日本列島であるのは自明なので、日本海(Sea Of Japan)と呼ぶのが慣例である。